小山星河は椅子を引いて立ち上がり、江口海に続いて教室を出た。鈴木瑠璃に顎をしゃくって、「行くぞ」と言った。
「うん」瑠璃はのんびりと後ろについていった。
この時間、廊下は人でいっぱいだった。みんなイケメンを見るために出てきて、何十もの視線が瑠璃に注がれ、好奇心と観察の眼差しに満ちていた。
星河はそのまま腕を回し、彼女の肩を抱いて自分の側に引き寄せた。清涼な雰囲気にほんのりとミントキャンディーの香りが混ざっていた。
「あとで何を小言を言われても、聞いているだけでいいから、バレるようなことは言うなよ」
瑠璃はまつげを上げて彼を見上げ、春の気配を含んだ桃花眼と目が合った。
「安心して、今日はあなたの顔を参考にメイクしたから、私たち二人は実の兄弟そのものよ」瑠璃は胸を叩いた。
星河はふと立ち止まり、上がった目尻で彼女の顔を注意深く観察し、低くて柔らかい声で、少し挑発的に言った。「なるほど...今日の野さんはこんなに綺麗なわけだ」
瑠璃は「...」と言葉に詰まった。
職員室に入ると、江口海は保温マグを持って振り向き、そこで初めて星河と一緒に入ってきた瑠璃に気づいた。
「江口先生、こちらは私の兄です」と星河が言った。
江口の目が少し大きく開き、なるほどという表情で笑いながら言った。「ああ、あなたが星河の保護者ですね。どうぞ座ってください!」
瑠璃は江口の机の向かいに座り、少し前かがみになって言った。「聞いたところによると、うちの星河の成績がかなり下がっているとか?」
星河は彼女をちらりと見て、唇の端を少し上げた。
憂鬱な気分も「うちの」という言葉で一瞬で晴れた。
江口は逆に彼女を慰め始めた。「いいえ、そんなことはありません!実は星河はまだ一位です。ただ英語の解答用紙に少し問題があっただけで...」
瑠璃は江口から渡された水を受け取り、「ありがとうございます」と言った。
「星河君はあらゆる面で優秀です。授業中に寝ていても一位が取れるなんて、本当に頭がいいんですよ!」
星河はさらりと一言挟んだ。「普段も問題を解いています」
江口は「ほら見てください、なんて謙虚な子なんでしょう!」と言った。
瑠璃は「...」と思った。
担任に20分ほど褒められ続け、瑠璃はもう自分が来た目的をほとんど忘れかけていたとき、江口はようやく話題を変えた。