第38章 オーディション

今度は森秋陽が彼を睨みつけた。「こんな簡単な問題も分からないなんて、豚の脳みそか？衍がどうしてこんな馬鹿な特別秘書に耐えられるのか理解できないわ」

「うるせぇ！」橋本南は口をとがらせ、グラスに残っていた赤ワインを一気に飲み干した。そして、何かを急に思い出したかのように、驚いたように秋陽を見つめた。

「もしかして...安瑠が言ったあの言葉のせい？」武内衍に伝えるなと言った言葉のことか？！

秋陽は軽く鼻を鳴らし、まだ半分しか食べていない夕食を続けた。「まだそれほど馬鹿じゃないようね」

南はため息をついた。BOSSが言わなければ、誰が彼の考えていることを推測できるだろうか？とにかく彼は勝手に推測する勇気はなかった。うっかり槍玉に上がるのを避けたかったからだ。

——

永川安瑠は食べ物の入った箱をバックパックに入れ、タクシーで世紀グループへ向かった。

「いらっしゃいませ、ご用件は何でしょうか？」受付の女性は安瑠が近づいてくるのを見て、とても丁寧に尋ねた。

「人を探しに来ました。永川安暁という者です」安瑠は自分の目的を説明した。「あなたの会社の社長秘書が私に来るように言ったんです」

世紀グループは通常、外部の人間の立ち入りを厳しく制限している。そのため安瑠は、受付に入館を拒否されないよう、橋本南の名前を出したのだ。

しかし意外なことに、受付は驚くことなく、机の上の記録簿を確認してから微笑みながら彼女に言った。「永川さんでしたか。橋本秘書からさきほど電話がありました。少々お待ちください。ご案内いたします」

「ありがとうございます」安瑠は微笑みを浮かべた。橋本南からだったのか。彼がこんなに気配りができるとは思わなかった。

……

世紀グループのオフィスビルは主に二つの部分に分かれていた。一つは世紀、もう一つは皇娯だ。しかし世紀のビルからはどう歩いても皇娯に行くのは難しく、社長専用のエレベーターだけが世紀と皇娯を直接つないでいた。

現在、皇娯ビルの29階、最も奥の部屋では、時代劇映画「十里の桃花」のオーディションが行われていた。

皇娯はこの作品の最大の投資者として、最も発言権を持つ立場にあった。そのため、主演男女の人選について、皇娯は大きな発言権を持っていた。