第97章 神出鬼没のデザイン図

彼女はもうデザイナーになることを諦めたのに、デザイン部長になれるだろうか?

永川安瑠は納得できなかった。もう二度とペンを持ってデザインできないことが納得できなかった。一つの悪夢に怯えて立ち止まることが納得できなかった。自分の夢から遠ざかっていくことが納得できなかった。

しかし、彼女は自分で作り上げた安全な場所に縮こまり、世間から隔絶し、あの悪夢から逃れ、何度も何度も自分に言い聞かせていた。あれは全て過ぎ去ったこと、触れなければ苦しむことはないと。

「どこからの根も葉もない噂なのでしょうか?部長、考えてみてください。もし私が望んでいたなら、なぜ最初から谷川さんの提案を受け入れず、こんな回り道をするでしょうか?あなたのデザイン画を持ち去り、会社の利益を損なうことが、私にどんな得があるというのでしょう?」

安瑠はそう言いながら、明瞭でゆっくりとした口調で話した。彼女の声は澄んで心地よく、まるで水滴が翡翠に落ちる音のようだった。

彼女の言葉は理にかなっていた。谷川謙と葉山逸風の評価を得ているのだから、二人の提案に直接同意すれば良かったはずだ。

なぜわざわざ部長のデザイン画を持ち去るという、事が起きれば真っ先に疑われるような愚かな行為をするだろうか?

ユリの隣で俯いていたニロは、心の中で「ドキッ」として、突然不吉な予感が湧き上がってきた。

「もし部長がまだ信じられないなら、調査してみればいいでしょう。デザイン原案が誰の手を経たのか、誰が関わったのかを一人ずつ調べれば、きっとデザイン画を盗んだ人物が見つかるはずです!」安瑠の声色が変わり、それまでの柔らかくゆっくりとした口調から、突然直接的で断固とした調子になった。

彼女の態度は率直で落ち着いていた。デザイン画が自分によって持ち去られたかどうか確定していない状況で、こんなにも冷静に状況を分析できることに、ユリは彼女を一目置いた。

能力のあるデザイナーは多いが、能力と心構えを兼ね備えたデザイナーは数少ない。

ニロは急にユリを見つめ、内心焦り始めた。部長はまさか彼女の提案に同意するつもりではないだろうか?

あのデザイン画は、いつも自分が取りに行っていたのだ。こうなれば、自分も容疑者のリストに入ることになる。