第96章 デザイン図の行方

ユリは永川安瑠の困惑した様子を見て、心の中で「本当に上手く演技するわね」と思いながら口を開いた。「何も足りないものはないって確かなの?」

安瑠は再び資料を確認し始めた。最初は本当に何も足りないものはないと思っていたが、頭の中でデザイン案の数を数えていくうちに、何かが足りないことに気づいた。

彼女は急いでデザイン案に記載されている署名を確認し、もう一度見直した。そして驚いたことに、ディレクターのものだけが足りないことに気づいたのだ!

先週の金曜日、彼女はデザイン案をチェックした後すぐに枚数を確認していた。これは今回の新製品発売のためのデザインで、一切のミスが許されないものだった。一枚でもデザイン画が足りなければ、製品の製造に影響が出てしまう。

しかし、ここにはディレクターのデザイン案だけがなかった!

大変なことだ。今回は首席デザイナーの谷川謙のデザインの他に、もう一つの目玉商品がディレクターが担当したデザインだったのだ。そのデザイン画がなくなれば、仕上げなどの後工程に支障をきたす。これがどういう意味を持つか…

「ディレクター、私を疑っていることは分かります。でも、心から誓って言えることは、私はデザイン画がなぜ消えたのか知りません」感情が入り乱れた後、安瑠は顔を上げ、真剣な表情でユリに言った。

ユリは確かに彼女を疑っていた。最初は少し疑っていただけだったが、ニロに煽られた後、さらに疑いが強くなっていた。

「何か証拠はあるの?」ユリは尋ねた。

「今のところ証拠はありませんが、これらのデザイン画に触れることができるのは、私以外にもたくさんの人がいます。なぜディレクターは私だと思うのですか?」安瑠は澄んだ目で、少しも怯むことなくユリの疑いの目を真っ直ぐ見返した。

このような状況は海外では経験したことがなかったが、安瑠の3年間の海外生活は無駄ではなかった。証拠がない状況では、誰もデザイン画を誰が持ち出したのか証明することはできない。

なぜか安瑠は、この件がニロと無関係ではないという直感を感じていた。