彼女はこの呼び方をずいぶん長い間聞いていなかった。
永川安瑠はかつて母親から聞いたことがあった。小さい頃、彼女は武内衍にとても懐いていて、話せるようになった時、最初に言った言葉は「ママ」ではなく、「衍」だったのだ。母親が生きていた頃まで、よく「この小さな薄情者め、まだ幼いというのに、もう他人の家の子になってしまった」と冗談めかして言っていたものだった。
安瑠は、自分より4歳年上の衍を「おじさん」と呼ぶのを聞いて、彼がどう感じたのかわからなかった。結局、当時は皆小さかったし、誰が覚えているだろうか?でも彼女は知っていた。あの時から、彼女はずっと衍のことを「十二おじさん」と呼んでいたのだ。
時々、調子に乗った時には、単に「十二」と呼ぶこともあった。
それが、彼女が5歳になる頃、突然衍は彼女の家を離れ、何人かに連れられて行ってしまった。その後、安瑠が彼に再会したのは高校の時だった。再会後の最初の出会いを思い出すと、安瑠は串焼きで自分を刺し殺したくなるような衝動に駆られた。
「もう言わないで。彼が私を困らせないだけでもありがたいわ。今は彼がどこにいるのかさえわからないのよ」安瑠は憂鬱そうに言いながら、手にした串焼きを力強く噛みちぎった。まるで串焼きを衍に見立てて噛んでいるようだった。
葉山千恵は思わず「ツツツ」と舌打ちし、手に持っていた串を捨て、安瑠の肩に腕を回して、悪戯っぽく提案した。「あなたの十二おじさんって、あなたがしつこくつきまとうのが一番苦手だったんじゃない?昔はよく飛びついて、しがみついて離さなかったじゃない?その手を使えばいいんじゃない?」
そう言って、「三年会わなかったから度胸がなくなったの?」とでも言いたげな、殴りたくなるような表情を浮かべた。
安瑠だってそうしたいのだが、彼女にそんな勇気があるだろうか?
最初の出会いから、衍の彼女に対する態度、そしてその後の態度を考えると、安瑠に百倍の勇気があったとしても、衍にそんなことはできないだろう。
命が短くて退屈だと思っているわけではないのだから。
千恵は彼女がさらに憂鬱になったのを見て、すぐに彼女の肩をポンポンと叩き、親友のような態度で言った。「私が彼の居場所を探ってあげようか?兄は一応グループの社長だし、そういうことは知っているはずよ」