第65章 難癖をつける

橋本南はゴミ箱の隅にある背広を一瞥し、この高山さんのために心の中で一秒間の黙祷を捧げた。

あなたが愚かなのはあなたのせいではないが、BOSSの底線に触れたのはあなたの過ちだ。

……

永川安瑠は足を止めることなく最上階を離れ、階下に戻った。あの場所が完全に見えなくなったとき、やっと足を止めて振り返り、その方向を鋭く睨みつけた。

しばらく睨んだ後、そんなことをしても意味がないと思い、気まずそうに視線を戻し、立ち去ろうとした。

しかし、彼女が身を翻した瞬間、不意に数人とぶつかってしまった。

「どこの目の見えないやつだ？！俺のブランドスーツが！」粗野な罵声が響き、安瑠が数歩後退して立ち止まると、自分とぶつかった数人の姿が見えた。

颐の宮は誰でも簡単に入れる場所ではなく、入れる人は皆、身分や地位のある者たちだ。

目の前に立っているこの数人は、一見すると裕福な家の子息のようだが、まるですべてのブランドを外付けしたかのような姿は、成金そのものだった。

安瑠は眉を軽く寄せ、澄んだ瞳で彼らを一瞥した。ここは角ではなく、人々が行き交う円形ホールだ。彼女が一瞬ぼんやりして道を見ていなかったとしても、これらの人々は正面から歩いてきたのに、どうして彼女とぶつかることがあり得るだろうか？

四人の金持ちの子息のうち一人のスーツには赤ワインがかかっていた。おそらくぶつかった時にこぼれたのだろうが、この男の顔には少しも残念そうな表情はなく、むしろ幸災楽禍の色が浮かんでいた。

安瑠はこの種の視線を見ただけで、この一団が意図的にトラブルを起こそうとしていることを理解した。

「おや、この娘さん、なかなかの美人じゃないか。この容姿を見ろよ、間違いなくパーティーの中でもトップクラスの美女だ。ただ、この服装は…」男の視線は貪欲に安瑠の美しい顔を這い回り、その後、この金ぴかの中では全く目立たない彼女のドレスに向けられ、その目には軽蔑と自負が混じっていた。

これらの道楽息子たちは、やはり金だけで人を判断するのだろうか？

安瑠は眉をきつく寄せ、何か言おうとしたが、この一団に遮られた。「日向さん、お目が高いですね。この娘はあの令嬢たちとは違って、あなたが自由に弄べる相手でしょう」