「姉さん、武内衍は普通の男じゃないよ。彼に近づきすぎると、傷つくことになる」永川安暁の声には諦めが混じっていた。彼は永川安瑠の前に歩み寄り、真剣な表情で彼女を見つめた。
以前、安暁が姉と衍が一緒にいることを知った時から、何か予感めいたものを感じていた。案の定、その後安瑠は海外へ行ってしまった。
そこに何も問題がないなんて、安暁は信じられなかった。
幼い頃から安暁は衍のことをあまり好きではなかったし、大人になった今はなおさらだった。
安瑠は少し目を伏せ、それから瞼を上げて安暁を見つめ、少し可笑しそうに言った。「あなたは小さい頃から衍に反発してたけど、大人になっても変わらないのね?」
安暁は不満そうに軽く鼻を鳴らし、顔からサングラスを外すと、手に持っていた上着もソファに投げ捨てた。白いシャツとカジュアルなパンツだけを身につけ、全体的に見るとリラックスしてかっこよく、現在の芸能界で彼に作り上げられた「優しい男性」のイメージにぴったり合っていた。
安暁はファンの目には、紛れもない優しい男性だった。
しかし安瑠の前では、安暁はとても子供っぽくなり、自分の本当の姿をさらけ出していた。
「姉さん、僕が心配なのは、彼が3年前のことで恨みを持って、本気で姉さんのことを想っていないんじゃないかってことだよ」
安瑠は安心させるように彼に微笑み、心配しないでと合図した。「そんなことないわ。だって...もう過去のことだから」
過去のこと?
そんなはずがない。
この3年間、彼女自身も忘れられなかったのに、どうしてそんなに簡単に過ぎ去るだろうか。
衍が彼女に恨みを持っているかどうか、本当に心から愛しているのかどうか、そういったことは彼女にはわからなかった。そして今の彼女には彼と交渉する資格もなかった。今の彼女の立場は、ただの隠れた恋人に過ぎなかった。
そして衍が彼女をまだ好きだから一緒にいるという可能性は、ほんのわずかだった。彼女はそんなことを信じたことはなかった。
——
今日のこれらのデザイン画は最後の仕事だった。これらを確認し終えれば、安瑠の仕事は一段落する。
彼女が翡翠に来てから、すでに多くのデザイン画を見てきて、心の中ではムズムズしていた。思わず筆を取りたくなっていた。