そういうわけで、ニロは永川安瑠が筆を持てないと断定した。その理由は、おそらく彼女の手の怪我がまだ治っていないからだろう。
そう考えて、ニロはデザイン画を元の場所に戻さず、一緒に持ち帰ることにした。
アシスタントのオフィスに戻った後、ニロはすぐにデザイン画を全部提出せず、そのデザイン画の原案を手に取り、細部の箇所を全て丁寧に描き起こした。
それから、ニロはようやく全てのデザイン画をまとめて提出した。
間もなく、ディレクターの内線電話がかかってきて、ニロを呼び出した。
「これはあなたが描いたの?」ユリはそのデザイン画をニロの前に押し出して尋ねた。下に署名があったからこそ、ユリはニロがこんなに優れた能力を持っていることを知ることができた。
このデザイン画は、完璧と言えるものだった。
ニロはそのデザイン画をちらりと見て、驚いた表情を浮かべ、顔を上げてユリを見つめ、少し恥ずかしそうに言った。「私が描きました。暇な時に何気なく描いたものですが、まさか一緒に持ってきてしまうとは思いませんでした。ディレクターに笑われてしまいました。」
そう言って頭を下げた。
ユリは眉を上げて彼女を見つめた。ニロの一連の反応から、このデザイン画が確かに彼女のものであり、そこには確かに彼女の名前があることがわかった。デザイン画からも、彼女の才能が優れていることが見て取れる。ただ、これまで誰も気づかなかったから、ずっとアシスタントのままだったのだろう。
「うん、いいわね。この図面は特別に採用させてもらうわ。発売後の反応が良ければ、社長にあなたの昇進を提案するつもりよ。」ユリは満足げに頷き、ニロを徐々に認めるようになった。
ニロは嬉しそうに顔を上げた。「本当ですか?ディレクターのご指導に感謝します。もっと頑張ります!」
「ええ、下がっていいわ。このことは社長に報告しておくから。翡翠にはあなたのような人材が必要なのよ。」
「はい!」
ディレクターのオフィスを出たとき、ニロはまだ夢心地で、自分がどこにいるのかもわからないような、全身が浮いているような感覚だった。
しかし、我に返った時、彼女は突然全身が冷たくなった。どうして忘れていたのだろう、あのデザイン画は彼女が描いたものではなかった!