永川安瑠は葉山逸風の秘書であり、他の人たちのように展示会場を見て回ることはできず、彼の後ろに立って指示を待つだけで、少し退屈していた。
葉山逸風は電話を切った後、その書類を開いて数行目を通し、閉じて彼女に渡した。「行こう、見てみよう」
「はい」安瑠は頷き、逸風の後ろについてショーケースの前まで歩いた。彼女の視線は思わずそこに留まり、なぜか突然、あの行方不明になったデザイン画を思い出した。
それは長い間、彼女が初めて手がけたデザインだったので、やはり少し気になっていた。
「今回のデザインで、特に推薦したい人物がいます。彼女は沈黙を破り、一鳴驚人、彼女独特のデザインの才能を見せてくれました」ディレクターのユリの声が突然展示会場のステージから響き、皆が思わず彼女の方を見た。
ニロ?
安瑠は眉を上げ、ステージ上のユリを見た。彼女はニロに手招きしていた。
ニロのデザイン作品もその中にあるの?それは奇妙だった。デザイナー以外の作品は一切提出できないはずではなかったか?
「ニロは確かに秘書ですが、彼女のデザインの才能は疑う余地がありません。だからこそ私は特別に彼女のデザインを推薦しました。皆さん、ご覧ください。これが彼女の今回の作品です」ユリは手を伸ばし、あるショーケースを指さした。
このジュエリー展示会は小規模ではあったが、翡翠の幹部は全員出席していた。翡翠の社内展示会とはいえ、外部向けでも決して小さいとは言えないものだった。
安瑠と逸風もそのショーケースの前に歩み寄った。ショーケースの周りにいた人々は社長が来たのを見て、すぐに場所を空けた。
「社長、これが私がご提案したデザインです。ご覧ください、構想が独特で、デザインも完璧です。ニロは確かにデザイナーになる才能があります」ユリは逸風が現れるのを見て、彼に説明した。
ユリにも私心があった。ニロは自分の秘書であり、彼女がデザイナーになれば、自分にとっても利益があるだろう。
結局、この世に無料のランチはないのだから。
逸風はショーケース内のデザイン品を見て、穏やかな瞳に賞賛と驚きの色が滑り、そして頷いた。「素晴らしい。これを商品棚の最も目立つ場所に置こう」
「社長のお褒めの言葉、ありがとうございます」ニロは逸風に褒められ、顔に喜びの色が浮かび、逸風の穏やかで優雅な顔を見ながら、頬が少し赤くなった。