第48章 世界は小さい

永川安瑠はこの社長にも少し興味があった。彼女が翡翠に入社したのは、特に会社について調べたわけではなく、ただ翡翠が茨城で二番目に大きな宝飾品グループだと知っていたので履歴書を送ったところ、思いがけず早く採用されたのだった。

彼女はまだ翡翠の歴史を詳しく調べる時間がなかった。社長クラスの人物が皆、武内衍のように若くて有能で、しかも一目見ただけで人を魅了するような容姿を持っているわけではないだろう。

この社長は太鼓腹の中年おじさんなのか、それとも世界中が自分にお金を借りているかのように顔を引き締めた古風な人なのだろうか?

しかし、その人物が実際に現れたとき、安瑠はそのどちらでもないことに気づいた。

オフィスのドアが開き、銀灰色のオーダーメイドスーツに濃い緑のネクタイを締めた、温厚で上品な外見の男性が最初に入ってきた。その後ろには数人の幹部が続き、彼に何かを報告していた。

彼の醸し出す雰囲気はとても穏やかで、まるで温かい翡翠のようだった。その柔らかな気配は人を非常に心地よくさせた。

アシスタントのオフィスは一瞬にして静まり返った。誰も口を開かず、まるで彼らの会話を邪魔しないようにしているかのようだった。

安瑠はその場で固まってしまった。この男性は…

明らかに先日、耀星のジュエリー展示会で彼女に話しかけてきた男性だった。彼の会社でデザイナーとして働くことを検討してほしいと言っていたのだ。

エマ、なんて小さな世界なんだろう。彼の提案を断ってからどれだけ経ったというのに、気がつけば自分は彼の会社のデザイナー…アシスタントになっていたなんて!

安瑠は口元を引きつらせ、思わず首をすくめて、できるだけ自分の存在感を薄くし、この男性に気づかれないようにした。

恥ずかしすぎる。さっき人の誘いを断ったと思ったら、今はその人の会社のデザイナーアシスタントになっているなんて、これはどんな因果応報なんだろう?

葉山逸風はオフィスに入ると、その穏やかな瞳で大まかにオフィス全体を見渡した。ふと、ある場所で視線が止まった。

彼は安瑠が一生懸命頭を下げ、自分の存在感を薄めようとしている姿を見つけた。思わず唇の端が上がり、目に笑みが宿った。

彼女は確かに翡翠の社員だった。