第60章 卑劣な野方若秋

翌日、窓の外はすでに明るく、三月の少し暖かい日差しがカーテン越しに室内に差し込み、明るいが暑苦しくはなかった。

ピンポンピンポン、ピンポンピンポン。

永川安瑠がまだ浴室で身支度をしているとき、規則正しいドアベルの音が聞こえてきた。今日は週末だが、誰が彼女を訪ねてくるのだろう？

豊かな黒髪をかき上げながら、安瑠は室内用のスリッパを引きずりながらドアへ向かった。ドアを開ける前に、床に一枚の紙が置かれているのが見えた。

安瑠はかがんでその紙を拾い上げ、困惑した表情でその内容を見た。澄んだ瞳孔が一瞬縮んだ後、すぐにドアを開けて外を見たが、廊下は空っぽで誰の姿も見えなかった。

何が起きているのか思い出した安瑠はすぐに部屋に戻ってドアを閉め、携帯を取り出して電話をかけた。細い指が徐々に握りしめられ、相手が電話に出るとすぐに先手を打って言った。「野方若秋！私のお母さんの物をどうしたの？」

その紙は、茨城のあるオークション会社の宣伝チラシだった。そこには拡大された一式のジュエリーセットの写真が載っており、次回のオークション商品だった。

この野方若秋は、本当に彼女の母の形見をオークションにかけるつもりだったのだ！

母はすでに亡くなっているのに、なぜまだ彼女たちを放っておかないのか？

「あなた、物を見なかったの？私が何をしたと思うの？」電話の向こうから若秋のまるで目覚めたばかりのような怠惰な声が聞こえてきた。少し無関心な調子で、安瑠の怒りを無視していた。

安瑠は下唇をきつく噛み締め、歯が砕けそうなほどだった。若秋の厚かましい声に腹が立っていた。

「それに、忘れないでね、私はあなたの叔母よ。お母さんはそんな風に叔母に話すように教えたの？」若秋の声には厳しさが混じっていた。今回彼女は安瑠の弱点を突き、彼女を手中に収めたかのように非常に得意げだった。

安瑠はもちろんそのことを知っていたが、彼女を叔母と呼べというのか？冗談じゃない！

「母の遺体が冷めないうちに、あなたは会社を全部奪い取った。その後、弟を追い詰めた。あなたがしたことで、どうして私たちの叔母を名乗る資格があるの？」

時々安瑠は疑問に思っていた。若秋と母の間には一体どんな深い恨みがあるのか、なぜ彼女たち一家にこれほど残酷なのか。

しかし安瑠には理解できず、母も決して話さなかった。