葉山逸風はため息をつき、永川安瑠を見る目が少し複雑な様子で、それ以上何も言わなかった。
「この女の子は、コーエンノールの新星ではあるけれど、心が定まらず、才能も足りない。残念なことに、かつてコーエンノールで最も注目された栄誉賞が、こんな女の子のものだったなんて」ユリは葉山逸風の隣に立ち、展示ケースの前で弱気な表情を見せる安瑠を見て、思わず残念がった。
かつてコーエンノールの栄誉賞を受賞した謎の学生は、授賞式に出席せず、名前を栄誉碑に刻むこともしなかった。噂によると海外に行ったとのことで、彼女の名前を知る人はごく一部だけだった。
まさかそんな新星が彼らの会社に降り立ち、さらにこのような姿に堕ちるとは誰も想像していなかった。
「誰が勝ち誰が負けるかはまだ決まっていない。そんなに断言しない方がいいでしょう」突然男性の声が聞こえ、ユリが振り向くと、谷川謙が腕を組んで前を見ているのが目に入った。
「谷川さん、ジュエリーデザインコンテストに参加されていたのではないですか?どうして早く戻ってきたのですか?」ユリは突然会社に現れた謙を不思議そうに見て尋ねた。
「あんな大会、見るものなんてない。会社に問題が起きたと聞いて、すぐに戻ってきたんだ」謙はそのまま立っていた。彼は多くの芸術家と違って、芸術的な雰囲気を持っておらず、むしろ少し堅苦しい印象だったが、人柄は大らかで、デザインに対して非常に執着し、独自の道を歩んでいた。
ユリは目尻をピクリとさせた。あれほど大きな2年に一度のデザインコンテストで、審査員のあなたがそんな簡単に離れてしまって本当にいいのだろうか?
「谷川さんは、誰が勝つと思いますか?」逸風は謙の安瑠を擁護するような発言を聞いて、少し興味を持って尋ねた。
「葉山社長、見ていれば分かるでしょう?」謙は直接答えず、前を指さして見るように促した。
安瑠が展示ケースの前に立ち、すでに説明を始めていた。
「このジュエリーのデザインの源は、ある場所から来ています。その場所には名前がなく、暗闇に包まれています。想像してみてください、それは閉ざされた空間で、机と椅子、紙と筆だけがあり、一人の人間が机に向かって孤独に絵を描いている...」