第143章 永川安瑠の悪趣味

すぐに自分の手を差し出し、彼女と握手した。「これからよろしくね。」

「よろしくなんて、今や会社中の誰もが知ってるわ、あなたが未来のデザイナーだってこと。遅かれ早かれ、このアシスタントオフィスから出ていくでしょうね。」秋宛の言葉は率直で、回りくどくなく、お世辞も言わず、聞いていて心地よかった。

永川安瑠は目を細めて笑い、説明せずに話題を変えた。「さっき木下取締役の新しい秘書って言ってたけど、誰なの?どうしてあなたを追い出せるの?」

秋宛は彼女のこの質問を聞いて、驚いたように彼女を見た。「会社中の誰もが知ってるのに、あなたは知らないの?」

安瑠は正直に首を振った。「知らないわ。」

もしかして、何か隠された事情でもあるのだろうか?

秋宛は神秘的な様子で彼女に手招きし、耳元に近づいて事の顛末を説明した。

なんと、その木下取締役の新秘書は他でもない、本来なら辞職して去るはずだったニロだった。会社中で噂になっているのは、彼女と木下取締役が関係を持ち、裏取引で出世して翡翠に残れたということだった。

噂によると、木下取締役がニロを残すことを強く主張し、最初は取締役会の大多数が反対意見を持ち、一部は関与しなかったが、最終的に木下取締役はニロを自分の下に置き、コーヒーを入れたり書類をコピーしたりする小さな仕事をさせることにした。再び同じ過ちを犯さないよう、どんなデザイン図にも触れさせないようにしていた。

昨日の出来事に続いて、今日のこの一件で、ニロは翡翠に残ったとしても、人々から指を指されることになるだろう。

それでも彼女を去らせることができず、むしろ残って取締役の秘書になったことを考えると、安瑠は警戒せざるを得なかった。ニロは今、彼女を憎んでいるに違いない。

「私は翡翠に3年以上いるけど、彼女のような厚かましい人を見たことがないわ。こんなことを起こしても去らず、あの評判の悪い木下取締役と一緒にいるなんて。」秋宛は言いながら首を振り、理解できないという様子だった。

安瑠は自分の席に座り、葉山逸風の今日の会議に必要な書類を整理しながら彼女に尋ねた。「あなた以前は木下取締役の秘書だったんでしょう?彼のことを嫌っているみたいね。」