第173章 私がいるのに何を恐れる？

しかし今、武内衍はたった一言で全員に告げた。永川安瑠は彼の女だ、誰も手を出すな、たとえ一言の侮辱でさえも許さない。

林田依人の顔色は一瞬にして紙のように真っ青になった。衍の冷淡な表情を見て胸が痛んだ。あの安瑠という女のために、衍は彼らの会社に手を出そうとしているのか？！

どれほど心の中で怒りが湧いても、林田は人前で爆発することはできなかった。ただ唇を強く噛みしめ、その場を立ち去るしかなかった。

「武内さん、合計で1759万6300円になります。端数を切り捨てて1759万円でよろしいでしょうか」店長はもはや怠慢な態度を取る勇気もなく、橋本南が渡した黒いカードを受け取ってカード読取機を持ってこさせ、すぐに返却した。

衍は頷いて橋本に荷物を車に運ぶよう指示し、安瑠の手を取って外へ向かった。

1759万円以上……

安瑠の頭の中ではこの太字の数字が何度も繰り返されていた。衍に車に乗せられてようやく我に返った時、たった今の数分間で1000万円以上も使ってしまったことに気づいた！

彼女は恐る恐る目を上げて衍の表情を窺った。相変わらず冷たく淡々としていて、何の感情も読み取れない。深い瞳は渦のように底知れなかった。

会社から呼び出してこんなことをさせてしまった。きっと彼は彼女にうんざりしているに違いない。

しかし安瑠は何か不吉な予感を感じていた。

「武内衍……」安瑠は臆病そうに彼の名を呼び、車の座席の隅に縮こまりながら、澄んだ瞳で彼を見つめた。

「ん？」衍は軽く返事をした。声は冷たく、表情は厳しく、少し不機嫌そうに安瑠を一瞥した。

この一瞥で安瑠は誤解してしまった。衍が怒っていると思い込んだのだ。

「わざと林田と喧嘩したわけじゃないの。あなたを煩わせるつもりもなかったの。あの時はあまりにも腹が立って、思わずあなたに電話して助けを求めてしまったの。でも、あの屈辱は飲み込めなくて……」話すほどに安瑠の声はどんどん小さくなり、衍の目を見る勇気がなくなっていった。

おそらく1000万円以上のお金は衍にとって大したことではないだろう。しかし安瑠は違った。野方若琳から教わった道理の中に、他人のお金を無駄遣いしてはいけないという教えがあった。

他の女性にとってはこれが誇りや幸せかもしれないが、安瑠にとっては罪悪感の方が大きかった。