第172章 容顾のラブラブ虐犬

部門マネージャーたちは顔を見合わせ、何が起きたのか分からないまま取り残された。

実は永川安瑠から自ら電話がかかってきたことに、武内衍は非常に驚いていた。というのも、丸二日間、彼は安瑠に連絡を取っておらず、安瑠の方からも連絡はなかったからだ。

おそらく安瑠にとって、彼はただ星辰を守るための雇い主に過ぎないのだろう。

しかし、この電話一本で、衍のそれまでの考えは覆された。

あの女性の目には、彼の存在がないわけではなかったのだ。そうだろう?

衍が会社を出る時、表情には明らかな変化は見られなかったものの、社員たちは大ボスの身にまとっていた威圧感が消えたことを感じ取り、勇気を出して挨拶をすると、なんと返事までもらえた。

これは信じられないことだった!

橋本南は車を速く走らせ、30分ほどで安瑠がいる店に到着した。

衍が店に入るとすぐに、安瑠と林田依人の会話が聞こえてきた。彼は足を止め、前に進まなかった。

「武内さんがあなたに本気だと思ってるの?あなたみたいなバックグラウンドのない人間を、武内家が迎え入れるわけないでしょ?」

「何が言いたいの?」安瑠は相変わらず冷静で、林田の言葉に動揺する様子はなかった。

「何が言いたいか分からないの?はは、もう30分も経ったのに、武内さんは来ないわよ。永川安瑠、あなたはまだ昔のような高貴な姫様のつもりなの?今のあなたは、せいぜい武内さんに捨てられた使い古しの靴にすぎないわ。私と物を争う資格なんてあるの?」林田は軽蔑の極みといった様子で言い放つと立ち上がり、座ったままで淡々としている安瑠を見下ろした。

彼女は安瑠のどんな状況でも常に冷静沈着な態度が本当に嫌で、引き裂いてやりたいと思っていた。

「その服を私によこしなさい。カードで払うから、こんな貧乏人に時間を無駄にしてどうするの?」林田は店員に向かって横柄に言い、カードを差し出した。

「はい、はい、林田さん、少々お待ちください」店員はカードを受け取り、カード読取機を取りに行こうとした。

安瑠は唇を固く結び、じっと座ったまま動かず、まるで瞑想でもしているかのように、表情は寂しげだった。

認めざるを得ないが、林田はいつも彼女の弱点を的確に突いてきた。

安瑠が顔を上げ、何か言おうとした時、冷たく鋭い声が彼女を遮った。「待て」