第171章 ドレスの争奪

永川安暁が彼女のために選んだドレスは、永川安瑠を笑い泣きさせるほどのものだった。

彼が自ら選んだという愛情たっぷりのドレスは、着てみると普段着とほとんど変わらず、ただデザインが少し良いというだけだった。

多くの有名人が集まるパーティーに出席するのに、安瑠は弟に恥をかかせるわけにはいかないので、自ら選びに来たのだ。

安瑠は見た目が良さそうな店に入り、ゆっくりとハンガーラックの前で選び始めた。白く細い指が一着一着のドレスの上を滑るように触れていくが、どれも気に入らない様子だった。

彼女の横顔は、雰囲気を演出するために店内で意図的に暗くされたクリスタルライトに照らされ、繊細で幻想的で、言葉にできないほど清楚で魅力的だった。

「お嬢様、どのようなドレスをお探しですか?当店には海外から空輸されたばかりのオーダーメイドドレスがございます。お嬢様の雰囲気にぴったりだと思いますが、ご覧になりませんか?」店員が近づいて微笑みながら安瑠に声をかけた。

安瑠は店内を一周してもお気に入りが見つからなかったので、店員の言葉を聞いて頷いた。「いいわ」

店員はすぐに数箱を持ってこさせ、箱を開けると、中には非常に豪華なドレスが数着入っていた。

「これらは全て海外の有名デザイナーADIがデザインしたもので、国内では当店だけの取り扱いです。もしこれらを見逃されたら、後悔されるかもしれませんよ」店員は熱心にドレスを紹介した。少し大げさではあったが、ドレスが美しいのは確かだった。

安瑠の視線はその中の一つの箱に止まった。それはシルバーのドレスで、斜めに肩を出した腰を絞ったデザインで、ウエスト部分には透かし彫りのレースが使われ、裾には目を引く刺繍が施されていた。極上の美しさだった。

安瑠は心が躍り、手を伸ばしてそのドレスを取り上げた。しかし、取り上げた瞬間、別の手がドレスの反対側を掴んだ。

安瑠が横を向くと、派手なメイクをした林田依人の顔が見えた。

因縁の相手と鉢合わせるとはこういうことだろう。

まさに今の彼女たちのような状況のことだ。

「このドレスは私が目をつけたわ。包んでちょうだい」依人は得意げに唇の端を上げ、そのシルバードレスを強く引っ張りながら、傍らの店員に言った。