第181章 あなた、昨夜は最高だった!

「葉山社長、あなたもいらっしゃったんですね、なんて偶然でしょう」葉山逸風の姿を見かけた木下取締役は、すぐにニロの手を払いのけ、前に出て葉山逸風に挨拶した。

逸風は淡々と頷いただけだった。彼は常々木下に対して良い印象を持っていなかった。もし彼と彼らの家族が親しくなかったら、取締役の座など彼が務めることはなかっただろう。

「この方があなたの同伴者だったとは、どこかで見たことがあると思ったら...あなたのアシスタントだったんですね」木下は逸風が自分に構わないのを見て、気まずさを見せることなく話題を続けた。

木下の前後の態度の違いがあまりにも大きいことに、永川安瑠は口角を引きつらせながらも、木下の取り入りには応じなかった。

「ああ」逸風はそっけなく返事をし、木下の後ろに立つニロを一瞥してから、安瑠の手を取って歩き去った。

ニロは彼らの去っていく背中を悔しそうに見つめ、唇を強く噛みしめた。彼女は翡翠で2年以上働いていても葉山逸風の注目を一度も得られなかったのに、なぜ永川安瑠は何もしなくても簡単に彼に近づけるのか?

彼女は納得できなかった!

「何を見てるんだ?行くのか行かないのか?」木下の表情は一気に曇り、気まずさと怒りが入り混じり、腹の中の怒りはニロにしか向けられなかった。

ニロは顔の表情を引き締め、木下の肥えた顔を見て心の中で嫌悪感を覚えた。こんな男、葉山逸風とは比べものにならない。

しかし、どれほど嫌悪感を抱いても、この怒りを飲み込むしかなかった。彼女は愛想よく笑いながら、木下の腕に手を回して機嫌を取った。

逸風は安瑠を連れてあるショーケースの前に立った。中に置かれているものが一目で安瑠の目を引いた。

それはシンプルでありながら非常に目を引くブレスレットで、その模様は優雅で上品、古典的な高貴さを漂わせていた。

しかし、これらは安瑠を引きつける主な理由ではなかった。

このブレスレットを、彼女はかつて見たことがあったのだ。母親の手首に。星辰がまだ野方若秋に奪われる前、安瑠はよく母親がこのブレスレットをつけて様々なパーティーに出席するのを見ていた。

だから彼女はこのブレスレットに非常に強い印象を持っていた。さらに重要なことに、これは若秋が彼女に返したジュエリーボックスの中で唯一欠けていたものだった!