第254章 コンテストに不正あり

ちょっと待って、あの女性、どこかで見たことがあるような?見覚えがある気がする。

永川若は何かを突然思い出したかのように握りしめていた手を緩め、物思いにふけるようにトイレの入口を見つめていた。

永川安瑠はトイレを出た後、腕時計で時間を確認した。試合開始まであと30分ある。そのため、足取りはかなりゆっくりになった。

曲がり角に差し掛かったとき、安瑠は携帯の画面を見下ろしただけだったが、顔を上げた瞬間に誰かとぶつかってしまった。彼女は数歩後ろに下がり、壁に手をついて体を起こし、ぶつかってきた人を見た。

やはり曲がり角は危険だ。歩くときは注意が必要だな。

「お嬢さん、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」橋本南は目の前のサングラスをかけた美しい女性を見て、手に持った書類をしっかりと握りながら急いで尋ねた。

安瑠は橋本南だと気づき、少し驚いて唇を引き締め、それから軽く首を振った。「大丈夫です」

そして橋本南を通り過ぎて立ち去ろうとした。

「ちょっと待って!」橋本南はすぐに彼女を呼び止めた。なぜか、この女性に対して親しみを感じた。まるで以前から知っているかのように。

しかし記憶を探っても、彼の知り合いの中にこのような女性がいるとは思い出せなかった。

彼女はとてもおしゃれで控えめな服装をしていた。目の利かない人には、彼女が身につけている服が今年の春の最新コレクションの限定品だとはわからないだろう。お金があっても手に入らないものだ。白いシャツに体にフィットしたパンツ、そして黒いウエストが絞られた小さなジャケットを羽織り、足元には白いハイヒールを履いていた。すべて最新のもので、彼女に似合っていたが、わざとらしさはなく、自然な装いだった。

顔にはサングラスをかけ、顔の大部分を隠していたが、薄いピンク色の唇が微かに上がっているのが見えた。肌は白く滑らかで、白い磁器のようだった。黒くて柔らかい少し巻いた肩にかかる長い髪が、彼女を知的で自信に満ちた、非常に魅力的な女性に見せていた。

安瑠は振り返り、橋本南を見た。彼女の視線は穏やかで、少しも緊張した様子はなかった。「何かご用ですか?」

「私たち、どこかでお会いしたことがありませんか?」橋本南はつぶやくように尋ねた。この人から感じる親しみは本当に強かった。