望未は永川安瑠の表情がおかしいのに気づき、すぐに尋ねた。希未も安瑠の表情が、サンプルが売れた後に見せるはずの喜びの表情とはかけ離れていることに気づいていた。
サンプルと本物はそれほど似ていないが、どちらも瓢箪の形をしている。ただ、サンプルにはあれほど多くの模様が付いていなくて……
ちょっと待って……
模様?!
希未は口角を引きつらせた。「ママ、もしかしてサンプルと本物を取り違えたんじゃない?」
安瑠は顔を上げ、泣きそうな顔でカウンターの後ろに座っている希未を見た。「息子!ママってバカすぎない?!」
彼女はコンテストに出展する作品とサンプルを取り違えてしまったのだ。サンプルと本物は大きく異なるので、これを出品したら自分の顔に泥を塗るようなものではないか?!
希未は真剣な表情でうなずいた。「ママ、今回のコンテストはとても重要だよ。出場料は数百万円もするんだから、それを無駄にするなんて、ママはやっぱり少し間抜けだね」
「お兄ちゃん、そんな風にママを落ち込ませちゃダメ!」望未は安瑠の手首を握り、安瑠を守るような姿勢を取った。
希未は首を振った。もし望未というこの小さな守銭奴が、数百万円が紙幣に換算するとどれだけの量になるか知っていたら、きっとそんなことは言わないだろう。
さて、どうしたものか?
コンテストは明後日だ。しかも安瑠は特別招待されたデザイナー審査員の一人として、突然参加をキャンセルすることはできないし、このようなサンプルを持って参加することもできない。
しかし、こんなに短い時間で新しいジュエリーをデザインして、それを急いで製作してもらうことなどできるだろうか?
最短でも15日はかかる。でもコンテストは誰も待ってくれない!
「ママ、あのおじさんに頼んでみたらどう?彼は良い人そうだし、融通が利きそうだよ」希未はしばらく黙っていたが、突然安瑠に提案した。
安瑠の目が輝いた。希未を見つめ、「あのおじさん、連絡先を書いてくれた?」
希未はテーブルの上の用紙を指さした。「あそこだよ」
「息子、大好き!」安瑠は希未に投げキスをし、テーブルに歩み寄って探し始めた。
望未は小さな足で希未の側に駆け寄ったが、コンピュータの画面にはさっきのハンサムなおじさんの写真が表示されており、その下には彼女には理解できない文字がたくさん並んでいた。