万が一材料が間違っていたら……
白井香織は料理やお菓子作りが得意そうには見えなかった。
もちろん社長は最初からあのケーキを食べるつもりはなく、香織がどれだけ遠回しに勧めても、まったく聞く耳を持たなかった。
結局、香織は翌日の仕事があるため夜更かしできないと言い、根負けして帰っていった。
「い、いえ、何でもありません」深谷千早が吐き気を催したのは材料のせいではなかった。
人のせいだった。
どうして先ほど気づかなかったのだろう。
やはりアルコールは害悪だ!
「具合が悪いなら言いなさい」藤原宴司は冷たい声で言い、それから明石和祺に尋ねた。「車は準備できているか?」
「はい、すでに1階でお待ちしております」
宴司は立ち上がり、退社した。
千早は数秒間呆然としていた。
宴司の態度が冷静すぎるのではないかと思った。
彼女は先ほど、彼の初恋の人が直々に作ったケーキを食べてしまったのに、本当に怒っていないの?!
それとも、もはや彼女と言い争うことさえ面倒になったのか。
「奥様、もう遅いですから、早く行きましょう」明石が促した。
千早は急いで宴司の後を追った。
実は彼女は宴司が陰湿な報復をするのではないかと心配していた。
今は表面上怒らないで、後で彼女を裏切るとか……
彼女は宴司についてマイバッハに乗り込んだ。
車は藤原邸へと向かった。
千早はずっと慎重に観察し続けていた。宴司に怒りの兆候があるかどうかを。
車は藤原邸に到着した。
邸内では、小林百合が彼らを待っていた。
深夜の12時なのに、まだ寝ていないなんて?!
千早の胸が小さく震えた。
最悪の事態に備えた。
彼女は黙って百合の鋭い視線が自分に向けられるのを感じていた。
千早は後ろめたさがあり、自信がなかった。
ましてや今夜は宴司の機嫌を損ねてしまったのだから……
今夜はもう眠れないかもしれないと感じた。
百合に叱られるのを待つだけだ!
「千早を呼んで残業を手伝わせていた」宴司が突然口を開いた。百合が怒り出そうとした瞬間だった。
百合は宴司を見た。
そして千早を見た。
千早も実は少し驚いていた。
宴司が本当に彼女を助けてくれたの?!
そして百合は宴司の言葉を聞いて、明らかに感情が和らいでいた。
彼女の今夜の怒りは千早に向けられたものだった。