第49章 心が灰になり冷めた

深谷千早は小林百合の緊張した様子を見て、しばらくしてからようやく頷いた。

同意したということだ。

「まずはナイフを置いて」と百合は言った。

千早はナイフを置いた。

百合はすぐに使用人に指示した。「そのナイフを下げて、家中の鋭利なものをすべて調べて、片付けておいて」

「はい、奥様」

使用人はすぐに言われた通りにした。

百合は再び千早の方を向いた。

千早もまっすぐに彼女を見つめ返した。

「まずは部屋に戻って休んで、落ち着いて。とにかく冷静に」

「じゃあ、部屋に戻ります」と千早は言った。

「ええ、そうして」

彼女がまた突然発狂するのではないかと恐れているようだった。

千早は身を翻して階段を上がった。

その目の奥に、思惑通りになったという色が一瞬よぎった。

小林温子の言う通りだ、彼女は被害者なのだ。

なぜ彼女が負うべきでない重荷まで背負わなければならないのか?

こうして騒ぎを起こせば、藤原宴司と白井香織の件は、少なくとも藤原家の中では、彼女が不当な災難を被ることはなくなる。

彼女はただ離婚を待つだけでいい。

ここまで来れば、そう長くは待たされないだろうと考えていた。

……

蓮城の通り。

黒いマイバッハが道路を走っていた。

香織は藤原宴司の車に乗り、少し心配そうに尋ねた。「宴司、今日あんなに多くの記者が建物の下にいるとは思わなかったわ。あなたに何か迷惑をかけてしまうかしら?」

宴司は何も言わなかった。

香織もこれ以上何も言えなかった。

彼女は今、宴司の前で意図的に慎重な態度を見せていた。

宴司の同情心を呼び起こさないはずがないと彼女は信じていた。

かつて、彼女はこのようにして宴司に好かれるようになったのだ。

一度目が成功したのなら、二度目が失敗する道理はない。

「香織」宴司は突然彼女の方を向いた。

香織も深い愛情を込めた眼差しで宴司を見返した。

「あなたの首にかけているそのネックレス……」宴司は直接本題に入った。「いつからつけているんだ?」

香織は一瞬固まった。彼女は首を下げて見た。

この瞬間、彼女はまるでそれを思い出したかのように、大きく動揺した様子を見せた。彼女は緊張のあまり言葉を詰まらせながら「わ、私は……」

彼女は今日、約束の時間より早めに藤原蘭ジュエリーに来ていた。