第50章 汚れたものはもう欲しくない

「じゃあ質問を変えるわ。私たち、いつ離婚するの?」深谷千早は単刀直入に尋ねた。

藤原宴司の全身から冷気が漂っていた。

千早も今この瞬間に宴司と離婚の話をするのは賢明ではないと感じていた。

だって彼はたった今、母親に脅されたばかりだ。

でも、それが彼女に何の関係がある?

これは彼が自ら招いたことじゃないか?!

それに彼は真実の愛のためにすでに何も気にしていないのだから、この生きるか死ぬかの結婚生活をいつまでも引きずる必要があるの?!

「さっき自殺しようとしたのか?」宴司は突然、話題を変えて彼女に尋ねた。

「……」千早は唇を引き締めた。「あなたのお母さんに見せるためよ。あなたと白井香織のことで、自分に面倒が降りかからないようにね!」

宴司は冷たく彼女を見つめた。

しばらくして、彼は言った。「『愛おしの』のネックレスについてだが……」

「見たわよ、世界中の人が見たわ、白井香織が身につけてるのを」千早は彼の言葉を遮った。

昨夜、彼が突然ネックレスの話を持ち出したのは、すでに香織にプレゼントしたことを伝えようとしていたのだと今になって分かった。

彼の親切に感謝すべきなのだろうか?少なくとも彼は事前に伝えようとしていた。今日それが公になった時、彼女は心の準備ができていたはずだった。

「香織はただ借りただけで……」

「もういいわ、安心して。私は自分のことをよく分かってるから、もうあなたに要求したりしないわ」千早はゲームでまた負けた。彼女は顔を上げて宴司を見た。「それに私はそれほど気難しくないけど、ゴミを拾う習慣はないの。私にとって、ネックレスが他の女性の首にかけられたら、それはもう汚れたものよ。欲しくもないわ」

宴司の喉仏が動いた。

口に出そうとした言葉が、千早の言葉に押し返されて、言えなくなったようだった。

「そうそう、私が言ってるのはネックレスだけじゃないわ」千早は口角を軽く上げた。「あなたのことも含めてよ」

宴司の表情が一変した。

目に怒りを隠せなかった。

千早は宴司が彼女を絞め殺したいほど怒っていると感じた。

しかし結局。

宴司は「バン」という音を立てて部屋のドアを閉め、立ち去った。

そのドアの音はとても大きかった。

おそらく小林百合も聞こえただろう。