第65章 ドレスの争奪戦_2

唐津は横で絶え間なく褒め続けた。「白井さんがこのドレスを着ると本当に美しいです。まるであなたのために作られたようです。あなた以外、誰もこのドレスを着こなせません。さっきのあの方なんて、比べ物になりませんよ」

実際のところ。

目の利く人なら誰でも、深谷千早の方が着こなしていることは明らかだった。

SAは横で白目を剥きそうになっていた。

白井香織は唐津の褒め言葉を聞いて、気分が良くなった。

彼女は深谷千早の方を向いて言った。「このドレスを譲ってくれてありがとう。別にあなたとドレスを奪い合うつもりはなかったのよ。私が藤原蘭ジュエリーの広告塔だってことは知ってるでしょう?今夜は私のメインステージだから、きちんと着飾らないといけないの。藤原蘭ジュエリーの面目のためでもあるし、あなたも藤原蘭ジュエリーの社員として理解してくれるわよね?」

「はい、理解しています」千早は微笑んだ。

「安心して。今度、藤原社長の前であなたのことを良く言っておくわ」香織は鏡の中の美しい自分を見ながら言った。「そういえば、あなたの名前は何?藤原社長に伝えられるように」

「いいえ、結構です。これは私の当然の務めですから、白井さんは気にしないでください」

「藤原蘭ジュエリーにあなたのような社員がいるなんて、藤原蘭ジュエリーの幸運ね」香織は欲しかったドレスを手に入れて、言葉遣いもずっと優しくなった。

千早は横で微笑むだけだった。

香織はしばらく鏡を見た後、彼女のSAに向かって言った。「これにするわ。カードを通してちょうだい」

そう言って、銀行カードを取り出した。

取り出した瞬間、わざわざ千早に言った。「これはあなたの藤原社長が私にくれたカードよ。好きなだけ使っていいって」

実際には自分の地位や立場を自慢したいだけだった。

また、今日彼女に譲ったけれど、全く損はしていないということを伝えたかったのだ。

千早はただ微笑むだけだった。

香織のSAはカードを受け取り、丁寧に尋ねた。「白井さん、当店のVICカードをお持ちですか?」

「VICがないと買えないの?」香織はエンターテイメント業界に身を置き、高級ブランド製品の常連客でもあるため、当然ここのルールを理解していた。