第91章 悪意(2)

「行って仕事をしてきなさい」

深谷千早も長居せず、立ち上がってそのまま出て行った。

八尾麗奈はしばらく呆然としてから歩き出した。

藤原宴司が千早を叱責するものと思っていたが、予想に反して、先ほどの宴司の口調からすると、彼女の事前計画にむしろ満足しているようだった。

麗奈は歯ぎしりしながら、大股で千早の後を追った。

二人はエレベーターに乗り込んだ。

麗奈は率直に言った。「明石補佐はなぜあなたに新しいジュエリーの発売を事前に教えたの?」

千早は答えなかった。

どうでもいい質問に口を開く気はなかった。

「もしかしてあなたと明石補佐の間には…」麗奈は意味深な目で千早を見た。

千早は麗奈を横目で見て言った。「あなたがコネで入社したからといって、皆がそうだと思わないで」

確かに彼女自身もそうだったが。

しかし彼女は強制されたのだから、実力で入ったと言ってもいいだろう。

麗奈は千早のこの言葉に顔を青くした。

反論しようとした瞬間。

エレベーターが到着し、千早はすでに大股で出て行っていた。

麗奈は千早の傲慢な背中を睨みつけた。

彼女は千早が実力だけで総監督の地位に空降りできたとは到底信じられなかった。

きっと明石和祺と関係があるに違いない!

そりゃ威張り散らすわけだ。明石が宴司の側近だということは誰でも知っている!

麗奈は歯ぎしりした。

絶対に調べてやる!

一度証拠を掴んだら…絶対に彼らの関係を暴露してやる。

藤原蘭ジュエリーはオフィスロマンスを明確に禁止している。

特に上層部同士はより厳しく禁じられている!

その時、千早がどう収拾するか見ものだ!

麗奈が自分のオフィスに戻ると、後方支援主任の山本琴音がドアの前で待っていた。「八尾社長、白井香織さんのマネージャーと連絡が取れましたが、白井さんがちょうどドラマの撮影に入ったところで、スケジュール的に少し難しいかもしれないとのことです」

「断られたの?」麗奈の表情が一変した。

すでに言葉を口にしてしまった、それも藤原宴司の前で。もし香織が来られないとなれば、彼女の面目は丸つぶれだ。

「完全に断られたわけではありませんが、私が思うに…」琴音は言いよどんだ。

「言いたいことがあるなら言いなさい。もごもごして、どんな仕事ぶりよ!」麗奈は顔をしかめて厳しく言った。