春野鈴音は言い終わると、背を向けて立ち去った。
彼女は背筋をまっすぐに伸ばして去っていき、見る人に惨めな印象を与えなかった。
彼女の痩せて繊細な体つきは、本当に一握りで砕けてしまいそうに見えたが。
鈴音が去る時。
現場にいた全員が彼女を見つめていた。
あまりの驚きに顎が外れそうになるほどだった。
誰一人として声を出さず、彼女の退場を見守っていた。
その後ろ姿には言葉にできない頑固さがあり、また夜の闇の中で悲しみを帯びた美しい儚さも感じられた……
カメラは彼女の姿を捉え、去っていく後ろ姿を撮影した。
特別な構図も、フィルターも使わなかったが、このショットは今日撮影した多くのシーンの中で最も成功した一つとなった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
鈴音の姿はとうに皆の視界から消えていた。
ようやく誰かが勇気を出して尋ねた。「木村監督、どうしましょうか?」
木村冬真が振り返った。
表情はさらに暗くなっていた。
彼の全身からは近寄りがたいオーラが発せられ、誰も近づく勇気がなかった。
「撮影終了だ」
冬真はそれだけ言って、立ち去った。
モニタールームに戻ると。
彼はスクリーンの前に座り、今日撮影したシーンを見続けた。
深谷夕遅もずっと冬真の傍にいた。彼女は最初から最後まで、彼が春野鈴音という女優を困らせる様子を見ていた。彼がその女性を嫌っているように見えたが、冬真は終始彼女の存在に気づいていなかった。
自分はそんなに透明人間なのか?!
夕遅はついに我慢できなくなった。「木村冬真」
彼女が呼びかけた。
冬真は反応しなかった。
「木村冬真」夕遅の声は大きくなった。「撮影終了じゃないの?みんな帰ったわ、あなたは帰らないの?」
冬真は振り向きもせずに答えた。「まだ用事がある」
「じゃあ、あとどれくらい?」
「かなり長いよ」
「待ってるわ」夕遅は歯を食いしばった。
彼女は調べていた。冬真には彼女がいないと。
こんなに一生懸命なのに、彼を振り向かせることができないなんて信じられなかった。
冬真はもう夕遅に構わなくなった。
実際には彼女の存在に気づいていないわけではなかった。
目の前にこれだけ大きな生きた人間がいるのだから、見えないはずがない。
彼女の気持ちも分からないわけではなかった。