八尾麗奈は顔を真っ赤にして現場を後にした。
藤原宴司の視線はずっと深谷千早に向けられており、時折木村冬真を見ていた。
見られ続けて冬真も少し困惑していた。
彼は言った、「今日はこれでいいでしょう。明日チームを連れてきて撮影を始めます。まずは藤原グループでの藤原社長のシーンを撮影し、予定では一日半ほどかかるでしょう。明後日の午後に残りの藤原蘭ジュエリーの部分を撮影します」
「わかりました、明日は一緒に藤原グループへ行きましょう」
冬真は頷いた。
千早との仕事は確かに楽しく気楽だった。
「明日は私も行く」宴司が突然口を開いた。
千早は眉をひそめた。「あなたが何しに行くの?」
「撮影の様子を見に行くことも許されないのか?」宴司の表情は暗かった。
「好きにすれば」千早は相手にする気がなかった。
どうせ彼は社長なのだから、好きなことをすればいい。
簡単な別れの挨拶の後、千早は冬真を見送った。
宴司も一緒についていった。
冬真は少し恐縮した様子で、「私一人で大丈夫ですよ。お二人に見送られるまでもありません。明日は時間通りに藤原グループに到着します。では明日」
千早と宴司はエントランスホールのエレベーターまで見送った。
冬真が去った後、千早も身を翻してエレベーターのボタンを押した。
宴司はゆっくりと彼女の後に続いた。
千早はエレベーターの数字を見つめながら、頭の中で仕事のことを考えていた。
「君と冬真はそんなに仲がいいのか?」宴司が尋ねた。
千早は黙っていた。
「君は本当にこういうタイプの男が好きなんだな」宴司の言葉には皮肉が込められていた。
あるいは自嘲の意味もあったかもしれない。
千早は眉をひそめて彼を見た。
本来なら相手にするつもりはなかったが、今彼はどういう神経を使っているのだろう。
「文質彬彬、温文儒雅……」宴司はぶつぶつと言った。「徳永颯もそうだった」
千早は呆れた。
これは密かに嫉妬しているのか?!
彼がどうして嫉妬する資格があるのか?!
彼は外で浮気三昧じゃないか!
「女性は皆、優しくて思いやりがあって一途な男性が好きよ」千早は率直に言った。「私だけじゃなくてね」
言葉が落ちると同時に、エレベーターが到着した。
千早はエレベーターから出て行った。