第137章 ビンタを食らう(二回目)

藤原宴司は十六階へ向かった。

ちょうど八尾麗奈も十六階へ行くところだった。

二人はエレベーターホールで出会った。

麗奈は宴司を見るなり、オンラインマーケティング部では彼女に数億円の借りがあるかのような不機嫌な顔をしていたのに、一瞬で笑顔に変わった。

「藤原社長、あなたもいらしたんですね。深谷社長と木村監督の宣伝映像の撮影を見に来たんですか?私も少し心配で、様子を見に来たんです」麗奈は積極的に取り入ろうとした。

宴司は礼儀正しく返事をした。

「深谷社長がどうしても木村監督に撮影を依頼したいと言い張って。木村監督は新人ですし、確かに海外で専門教育を受けて賞も取っていますが、やはりここは国内ですから、国内の撮影環境は海外とは違います。最終的な撮影結果がずっと心配でした」麗奈は宴司の後ろについて歩きながら、深谷千早の悪口を言い続けた。

宴司は相手にしなかった。

麗奈はさらに言った。「私はずっと以前から付き合いのある月輝と一緒に撮影することを提案していたんです。みんな顔見知りですし、これまでの作品も皆さんに認められていますから、連携もスムーズだと思います。でも深谷社長はどうしても木村冬真と協力したいと。なぜだか分からなかったんですが、今聞いたところによると...深谷社長と冬真は恋人同士だそうです」

宴司の表情が一変した。

麗奈は内心喜び、宴司も千早の私情優先に怒っていると思った。

彼女は得意げに宴司の後ろについて歩いた。

時々明石和祺の方をちらりと見て、彼の表情も良くないことに気づくと、ますます千早と明石の間に何かあると確信した。

一行は千早と冬真の撮影場所へと向かった。

千早と冬真はまだ楽しそうに話し込んでいた。二人は撮影方法について議論し、千早が撮影中に冬真のために何を準備できるか、撮影スケジュールを遅らせないためにはどうすればいいかなどを話していた。

二人は真剣に話し込んでいて、宴司が来たことに気づいていなかった。

「ゴホン、ゴホン」明石が大きく咳払いをした。

千早と冬真がようやく振り返った。

宴司を見ても非常に冷静だった。

麗奈は眉をひそめた。千早は自分が何様のつもりなのか、藤原社長を全く眼中に入れていないようだった。

藤原社長に対しても態度が冷淡だった。

むしろ宴司の方から先に尋ねた。「どこまで話がついた?」