深谷千早はこちらにもう彼女の用事がないと思い、立ち上がって晩会を見に行くことにした。
今夜の晩餐会は壮大なものだと聞いていた。見ないのはもったいない。
しかし彼女が立ち上がった瞬間、急に立ったせいか頭がくらっとして、足も少しひねってしまった。
明石和祺は素早く反応し、千早をしっかりと支えた。
実に紳士的で、千早の腕に触れる以外は、他の部分との間に絶対的な距離を保っていた。
しかし八尾麗奈の角度から見ると、二人が異常に親密に抱き合っているように見えた。
彼女もこの時バックステージにいて、上司の前で仕事への積極性をアピールするため、とても忙しそうに見せていた。
彼女は急いで携帯を取り出し、素早く何枚も写真を撮った。
やっぱり、千早と明石には人に言えない秘密があるに違いない。
そして会社では上層部同士の恋愛は明確に禁止されている。
もし彼らの恋愛関係を公表したら、しかもこれだけ多くの会社幹部の前で公表したら……
彼女は千早がどれほど窮地に立たされるか想像できた。
八尾は自分の携帯の写真を見ながら、目の奥に残酷な笑みを浮かべた。
深谷千早、私が人として容赦ないと思わないでね。
あなた自身が、わきまえないんだから!
……
千早は立ち直ると、明石から離れた。
「ありがとう、明石補佐」
「どういたしまして。こちらへどうぞ、藤原社長の隣にはずっとあなたの席が空けてあります」
「白井香織は座らなかったの?」
「白井さんは別の席にいます」明石は気まずそうに言った。
千早は笑った。
藤原宴司はまだ左右に女性を侍らせたいのか?!
自分が皇帝だとでも思っているの?!
考えないで!
彼女は言った。「小林温子を探しに行くわ」
「奥様……」明石は難色を示した。
千早は明石の横をそのまま通り過ぎた。
さっきから温子も何度も電話をかけてきて、早く来るように催促していた。
今日のプログラムのレベルが高くて、見ないのはもったいないと言っていた。
彼女は観客席に向かった。
温子は彼女のために席を確保していた。
幸い彼女は温子のところに行ったが、そうでなければ温子の性格からして、きっと彼女を罵倒していただろう。