藤原宴司は携帯を持つ手が、わずかに震えていた。
彼は運転手に位置情報を送り、「急いで!」と言った。
「はい」運転手はすぐにアクセルを踏み込んだ。
小林温子は手すりをつかんでいた。
深谷千早と徳永颯の居場所を突き止めたとはいえ、温子は少しも油断できなかった。
これだけ時間が経ってしまった今、一体何が...想像するのも恐ろしかった。
車は最速で目的地に到着した。
五つ星の高級ホテルではなく、蓮城の少し離れた場所にあるリゾートホテルだった。
今は夜も更け、辺りは静まり返っていた。
宴司と温子が到着した時、宴司の部下たちはすでに正面玄関で待機していた。
宴司を見た男性は急いで近づき、敬意を表して言った。「何度も監視カメラを確認して、深谷さんがここに連れてこられたことを確認しました。ホテルのスタッフは全員私たちが押さえていますので、情報が漏れることはありません」
宴司は軽く頷いた。
温子は今、全身が汗ばんでいた。
緊張のあまり、呼吸するのも怖かった。
彼女は宴司について大股でリゾートホテルに入り、エレベーターに乗った。
エレベーターの数字が上がるにつれ、温子の心拍数はますます速くなった。
何も起きていませんように。
絶対に何も起きていませんように!
エレベーターが到着した。
温子は廊下の突き当たりにあるドアを見つめた。
あそこだと言われている部屋だ。
彼女はずっと宴司の後ろについて歩いていた。
宴司の足取りは速く、彼女には彼の顔さえ見えなかったので、彼が少しでも緊張しているのかどうかは全くわからなかった。
彼らは全員、ドアの前で足を止めた。
宴司の指が少し強張った。
ドアの向こう側にどんな光景が待っているのか、誰にもわからない。
誰にもわからない、天地がひっくり返るような事態になっているかどうか。
千早にとって、颯にとって、そして彼自身にとって...
...
「だめ!」
千早は突然、颯を強く押しのけた。
颯は千早がこれほどの力を出すとは思っていなかった。
彼は数歩後ろに下がり、最終的にはベッドの端に腰を下ろした。
その時の颯は、わずかながら理性を取り戻したようだった。
彼は千早を無理強いするべきではない。
どんな理由があろうとも、千早の意思に反することをしてはいけない。
しかし...