小林温子はバーの入り口で魂が抜けたようにぼんやりしていた。
今にも大泣きしそうな勢いだった。
突然、黒いベントレーがバーの入り口に停車した。
藤原宴司の端正な顔が車の窓に現れ、温子は宴司を見た瞬間、一気に泣き崩れた。
まるで宴司が唯一の救いの藁のようだった。
彼だけが千早を危険から救い出せるのだ。
「乗れ!」
宴司が命じた。
温子は急いで車に乗り込んだ。
乗り込むなり、宴司の体から漂う強い酒の匂いが鼻をついた。
宴司も酒を飲んでいたのか?!
千早と喧嘩して、一人で憂さ晴らしに飲んでいたのだろうか?!
温子はそんなことを考えている余裕もなかった。
今は千早を見つけることが最優先だ。
彼女は焦りに苛まれながら宴司に言った。「宴司、どうすればいいの?どうやったら千早と徳永颯を見つけられるの?!」
「すでに監視カメラの映像を調べさせている。何か分かり次第、すぐに連絡が来る」宴司は冷たい声で言った。
「いつ分かるの?もうこんなに時間が経ってるのに……」温子は本当に怖かった。彼らが見つけた時には、すべてが手遅れになっているかもしれない。
宴司は黙っていた。
彼にも、保証はできなかったから。
「どうやって深谷千早と徳永颯だと分かったんだ?夜のクラブの監視カメラの映像は削除されたんじゃなかったのか?君も彼らがクラブに来たのを直接見たわけじゃないだろう?」宴司が尋ねた。
「私の友達が颯を見かけたの。あなたも知ってるはず、条野集っていう、あなたの高校の同級生で、颯とも同じクラスだった人。彼がクラブで颯に会ったって言ってたけど、颯は酔いつぶれて意識がなかったから、一緒に飲めなくて残念だったって。それから、颯が元カノと一緒にいたって言ってて、その元カノが深谷千早だって……」温子はもう崩壊寸前だった。「なんで私は彼らに会わなかったんだろう。もし会っていたら、誰にも彼らを連れ去らせなかったのに!」
宴司の表情はますます暗くなっていった。
「誰がこんなことをしたと思う?誰が千早と颯を陥れようとしてるの?」温子は突然宴司に尋ねた。
運転手は車を大通りに沿って走らせていた。
目的地が確定したらすぐに向かえるようにするためだ。
宴司は黙っていた。
温子は直接答えを言った。「白井香織よ!」
宴司の目が少し細くなった。