第163章 藤原宴司の救済(一更)

藤原さん?!

深谷千早は、その場で固まってしまった。

彼女は振り返って後ろから抱きしめている人が誰なのかを確認することさえしなかった。頭の中が初めて混乱で一杯になった。

記者が「藤原さん?!」と言うまで。

千早は急に振り返った。

自分より頭ひとつ分以上背の高い藤原宴司を見て、しばらく反応できなかった。

なぜ藤原宴司なの?!

いや……

千早の目には隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。

つまり昨夜、彼女と一晩中過ごした男性は、宴司だったのだ!

彼女はこれほど宴司との行為を喜んだことがなかった。

彼女にとって、今の宴司は救いの藁のようなものだった。

彼女を地獄から現世へと連れ戻してくれた。

しかし。

喜びはほんの一瞬で終わった。

現実の問題が再び浮上してきた。

今、彼女と宴司の関係が明るみに出たら、宴司と白井香織はどうなるの?!

宴司は記者の質問にどう答えるの?!

彼の回答は、彼女と香織の立場を大きく左右する。

香織を守るために、彼女が計画的に宴司のベッドに忍び込んだと言うこともできる。

あるいは香織を守らないという選択も……

もちろん、彼女は期待していない。

もし宴司が香織を守りたいなら、彼女は協力するつもりだ。

彼女にとって、昨夜徳永颯と何も起こらなかったことは、この上ない恩恵だった。

そして宴司が時間通りに到着してくれたことは、恩人と言えるだろう。

彼女は特別善人とは言えないが、恩を仇で返すようなことはしない。

「藤原さん?お答えいただけますか?」記者が急いで尋ねた。

「見ての通りだ」宴司は眉を上げた。「他に何を答える必要がある?」

「つまり、あなたは深谷さんと交際しているということですか?では白井香織さんは?彼女はあなたにとって何なのですか?あなたたちが別れたという話は聞いたことがありません!今日のニュースでも、昨日の藤原一族の周年記念パーティーであなたたち二人の親密な写真が報じられていました!」記者は鋭く質問した。「まさか藤原さんは二股をかけているのですか?!」

「私、藤原宴司は感情に誠実で責任を持って接する。二股などかけない」

「では今、あなたと深谷さんは……」記者はしつこく食い下がった。