第61章 冷淡

藤原宴司は一瞬固まった。

彼は軽く白井香織を押した。

しかし香織は彼をさらに強く抱きしめた。

全身が震え、声は止めどなく詰まりながら、「お兄ちゃん、会いたかった。お兄ちゃん、私を置いていかないで。あなたがいなくなったら、この世界に私一人だけになる。怖いの……」

宴司の瞳が引き締まった。

彼は堪えながら言った。「香織、落ち着いて。」

彼は彼女を自分の腕から引き離した。

香織は涙で目がかすんでいた。

彼女はまっすぐに宴司を見つめた。

この瞬間、ようやく不安が湧いてきたようだった。「宴司?」

「目が覚めたか?」

香織はうなずいた。

そして自分の顔中が涙でぬれていることに気づき、手で拭いた。「私、どうしたの?」

「悪い夢を見ていたんだ。」

香織は唇を噛み、しばらくしてから小さな声で言った。「お兄ちゃんの夢を見たの。」

宴司は唇を引き締めた。

「恥ずかしいところを見せてしまったわね。」香織は言った。彼女は笑おうとしたが、その瞬間、涙が止まらなくなった。

突然、崩れるように、「宴司、お兄ちゃんに会いたい……会いたいの……」

ついに耐えきれなくなったかのように。

涙が狂ったように流れ落ちた。

宴司は彼女の隣に座り、黙っていた。

彼はただそうして彼女に付き添い続けた。

香織が十分泣き、ようやく感情が安定するまで。

彼女は言った。「宴司、顔を洗いたいの。」

「ああ。」

香織は介護士の助けを借りて浴室に入った。

彼女は清水で自分の頬を拭いた。

顔中に悲しみの表情を浮かべながらも、口元には得意げな笑みを浮かべていた。

藤原宴司を操るのは、こんなに簡単なことだった。

彼女は再び感情を整え、赤い目をして出てきて、病床に戻った。

「何か食べる?」宴司は尋ねた。

「食べたくない。」香織は言った。「少し眠りたいの。」

「眠るといい。」

「宴司、私のそばにいてくれる?」香織は涙目で彼に尋ねた。

「そばにいるよ。」

「ありがとう、宴司。今日は私、ただ……明日には良くなるわ、明日には絶対に良くなるから……」香織は約束した。

宴司は返事をした。

香織は目を閉じ、その瞬間、手を伸ばして宴司の手を握った。

宴司の指が微かに動いた。

「少し怖いの……」

宴司は手を引かなかった。

しかし握り返すこともなかった。