第042章 ボスの奥様がタクシーを拾う

佐藤陸の言葉を聞いて、榎本剛は一瞬固まり、今田由紀の方を見た。すると由紀は夢中になってその障害者を見つめていた!

剛の気分はさらに悪くなり、嫌味たっぷりに由紀に言った。「由紀、まさか今のお前がそんなに顔が利くとはね。持田教授まで動かせるなんて、今まで見くびってたよ」

由紀は剛の皮肉めいた口調を聞いて彼を見た。最初に裏切ったのは彼なのに、今さらこれは何のつもりだろう?

「持田教授が来てくれたのは私の顔を立ててではなく、私の夫が頼んだからよ。お礼を言いたいなら、私の夫に言えばいいわ!」

由紀は剛と話すのも面倒で、話題を再び佐藤陸に向けた。

剛は彼女が一言も自分と話したくないという態度に、心中穏やかではなかった。そのとき泉里香が剛の腕に手を回した。「もういいじゃない。佐藤さんの好意なら、ありがたく受け取りましょう。佐藤さんと今田お嬢様がこんなに寛大なら、私たちも断るわけにはいかないわ。この恩は結婚式のときにお返しするしかないわね。そのときはぜひ早めに来てくださいね!」

里香は由紀に冷たい笑みを向け、剛の腕を引っ張って持田教授のオフィスへと向かった。振り返りもしなかった。

持田教授は軽蔑したような目で二人を一瞥した。陸は手を振って言った。「持田教授、お手数をおかけしますが、彼らは妻の友人です。よろしくお願いします」

「よろしく」という言葉を陸は特に強調した。持田教授はさっき剛と里香が佐藤奥様に意地悪をしているのを見ていたので、陸の意図を理解した。

「佐藤さん、ご安心ください。必ず彼らをしっかり『お世話』しますから」

佐藤さんと奥様に失礼な態度を取るとは、彼女は必ず『お世話』してやるつもりだった。

由紀は陸を車椅子で押しながら病院を出た。道中、彼女は落ち着かない様子で、以前の剛との関係をどう陸に説明すればいいのか分からなかった。

そのため、陸の身体検査の結果を聞くこともできなかった。

陸は彼女が何か考え込んでいる様子、深刻な表情、憂いに満ちた顔を見て、心を痛めた。

由紀と陸が病院の入り口から出ると、助手の細田次郎が控えめなアウディの中で待っていた。ボスと奥様が出てくるのを見て、急いで車から降りてドアを開けようとした。

しかし由紀は陸を押して細田の車の横を通り過ぎ、道端でタクシーを手招きして止め、陸を支えながら乗り込んだ。