第145章 他の男のために誕生日を放り出した彼

佐藤陸の冷たく淡々とした声が響き、電話の向こうで中村智也は思わず身震いした。「兄さん、そんなに焦らないで。見間違いかもしれないし、その人が必ずしも義姉さんとは限らないよ。義姉さんに似た人影を見ただけかもしれない。今すぐホテルに行って榎本剛の部屋に突入して…」

佐藤陸の方からは何の反応もなく、瞬時に電話が切れた。

「佐藤兄さんは何て言ってた?俺に言わせりゃ、あんな恥知らずの女が佐藤兄さんに浮気するなんて、いっそ一刀両断にしてやればいいんだ!」

渡辺直樹は不良っぽい態度でソファに座り、足を組みながら皮肉を込めて言った。

「余計なこと言うなよ。あの人が彼女じゃないかもしれないだろ!」森信弘が言った。

「違うって?今日は彼女の元婚約者・榎本剛の誕生日だぞ。彼女はあの男のために佐藤兄さんのことなんか気にもせず出かけたんだ。こんな女は海に投げ込んでサメの餌にすべきだ!」

「渡辺、でたらめ言うのはやめろよ。俺は義姉さんがそんな人だとは思えない!」

一晩中人探しに奔走した中村智也は疲れた表情で眉をひそめて反論した。

「お前はまだ『義姉さん』なんて呼んでるのか。はっ、あんな女が佐藤兄さんに気に入られるなんて、佐藤兄さんがどうして…」

「もういいよ、話すのやめた。俺は先に帰って寝るよ!」智也はそう言って出て行った。彼はあの女性を佐藤陸のために探し出したのが自分だということを、彼らに言いたくなかった。

でも最初に見た時の今田由紀は清純で愛らしく、こんな浮気をするような人には全く見えなかったのに?!

本当に頭が痛い!

陸は電話を切った後も、ずっと冷静に由紀のシルクのパジャマを丁寧に洗い、ベランダに干した。

それから一人でリビングのソファに座り、向かいの壁にある時計をじっと見つめていた。

この姿勢のまま夜が明け、時計の針が少しずつ進んでいくのを見ながらも、アパートのドアは最後まで開かなかった。

由紀は一晩帰らず、電話一本もなかった!

陸は頭を下げ、冷たく骨身に染みる笑い声を漏らした。その声は低く、絶望的な恐怖を滲ませていた!

彼は立ち上がった。アパートの至る所に由紀の足跡が残されていた。

しかし今、由紀の姿はどこにもない!

彼女は榎本剛の誕生日を祝いに行ったのだ。彼が病院に横たわり、彼女が彼の入院に怯えて家で泣いていると思っていた時に。