第013章 彼の少女は抜けている

「行きましょう、手続きが終わったら口座番号を教えてください!」

佐藤陸は顔を横に向け、目を細めて彼女を見た。今田由紀は顔を赤らめ、とても恥ずかしそうに両手をこすり合わせ、唇を噛んだ。「佐藤さん、すみません、実は私はそういう意味ではなくて、お金を急いでほしいわけではなくて、ただ…」

「わかっていますよ、説明は不要です!」

陸は彼女の前で手を伸ばして数回掴むような仕草をした。由紀はすぐに自分から手を差し出した。「ありがとうございます!」

「礼には及びません。これからは家族なんですから、私のものはあなたのものです」

陸は由紀の柔らかい手を握りながら笑顔で言った。

家族?!

由紀はその言葉を聞いて、胸が熱くなり、目に涙が浮かんだ。彼女はこの2年間、榎本剛の家族の世話を献身的にしてきた。彼女は自分を榎本家の一員だと思っていたが、結局彼らは彼女を何とも思っていなかった。

今、たった3回会っただけのこの見知らぬ男性と家族になろうとしている。彼女は恐怖や不安を感じるどころか、彼がそう言うのを聞いて、不思議なほど安心感を覚えた。

陸は由紀を連れて直接区役所へ行き、婚姻手続きをした。

由紀は初めてで、年も若く、以前に友人に付き添った経験もなかったため、当然区役所の中の状況を知らなかった。

「あれ?今日は結婚登録する人がいないんですね?」

由紀は陸の車椅子を押しながら、口をとがらせてつぶやき、好奇心いっぱいに左右を見回した。

陸は唇を引き締め、目に笑みを浮かべながら答えた。「今日は確かに静かですね。誰かが話している声も聞こえないし、私たちだけなのかな?それなら私たちが選んだ日は良かったということですね。こんなに空いていると、私のような状態でも不便じゃないですから」

由紀は陸を見て、この男性に同情を覚えた。彼はおそらく一生を車椅子で過ごすことになり、目も良くなく、外出も不便だろう。特に人混みの場所が一番大変なのだろう。

彼女は陸が自分の体の状態を悲しんでいると思い、慰めるように笑って言った。「佐藤さん、実はこれはいいことですよ。考えてみてください、ここがどんなに混んでいても、あなたのために場所を空けてくれますから、ハハハ…」