二人が民政局から出てくると、今田由紀は真っ赤な証明書を両手に持ち、その上の写真をぼんやりと見つめながら瞬きをした。「これで結婚したってこと?!」
佐藤陸は彼女のそんな可愛らしい様子を見て、思わず口元を緩めて微笑んだ。「君のカードを私によこしてくれないか。目が見えないから、帰ったら友人に頼んでお金を振り込ませるよ」
由紀はハッとして、口では急ぐ必要はないと言いながらも、心の中ではとっくに焦っていた。彼女が恐れていたのは、結婚してもお金がもらえず、結局は徒労に終わってしまうことだった。
しかし、今や彼女の合法的な夫となったこの男性からは、なぜか誠実さが伝わってきて、不思議と安心感を覚えた。
彼女がカードを渡すと、陸は彼女の目の前で、そのキャッシュカードを自分の財布に何度も入れようとしたが、うまく入らなかった。
由紀はそれを見て、すぐに手伝い、簡単に財布に入れてあげた。そして彼に言った。「佐藤さん、これからはしっかりお世話させていただきますね。ご安心ください」
「どうして佐藤さんなんて呼ぶの?私の名前は佐藤陸だよ。陸と呼んでもいいし、旦那さんと呼んでもいい。もう結婚したんだから、佐藤さんなんて呼ばれると他人行儀に感じるよ」
陸はそう言いながら、手を伸ばして由紀の手を探り当て握った。由紀はまだ彼の言葉を完全に消化しきれておらず、驚いてぼうっとしていた。
陸と呼ぶ?
それは親密すぎる。恥ずかしい。
旦那さんと呼ぶ?
これでまだ3回目の対面だというのに。確かに今結婚手続きを済ませたばかりで、彼は今や法律上の夫だけど…
彼女には本当に呼べそうにない!
「あの…私…こうしましょう、あなたは私より年上だから、陸兄さんと呼んでもいいですか?」
由紀は不安そうに彼を見つめた。目の前の陸が目が見えないことを知っていながらも、彼のサングラスの奥の瞳が彼女を見透かしているような気がして、緊張しながら彼を見つめた。おそらく彼女のこのような生意気な提案が彼を怒らせるかもしれないと思った。
陸兄さん?
これは全く新しい呼び方だった。佐藤家の長男として、疋田全体で風を起こし雨を呼ぶような存在である彼は、幼い頃から佐藤家の長孫として、天才として生まれ、生来冷淡な性格だったため、家族の中の子供たちでさえ、彼に近づく勇気はなかった。