第150章 私が家まで送る

ホテルを出て、雲田陵光の目を避けると、星野寒の瞳に漂っていた冷たい光が少しずつ収まっていった。

初陽の抵抗を無視して、彼は彼女をしっかりと抱き寄せ、自分の車へと押し込んだ。

初陽は抵抗しようとしたが、男女の力の差があまりにも大きく、まったく抗えないことに気づいた。

「離して!一体何をするつもり?」

寒は薄い唇を引き締め、一言も発せず、初陽を助手席に座らせると、安全ベルトを締め、ドアを閉めた。素早く運転席に戻り、窓をロックした。

初陽は怒りで仕方なく、白い小さな顔に赤みが差し、普段にはない色っぽさが増していた。

「どこへ連れて行くつもり?」

「家まで送るよ。もう遅いし、一人で帰るのは安全じゃない」寒は彼女をちらりと見て、淡々と答えた。

そして、車を発進させ宇虹ホテルを後にした。

「私の車はどうするの?」初陽は突然、レンタルした車がまだホテルの入り口に停まっていることを思い出し、慌てて尋ねた。

寒は助手席でまだもじもじしている女性をじっと見つめ、低い声で言った。

「明日、広田崇に取りに行かせる…今夜、君を助けた見返りに、大人しく家まで送らせてくれないか?もう騒がないでくれる?」

初陽はハッとして動きを止め、じっくり考えた。今夜、寒がいなければ、陵光の目の前で無事に逃げ出すことはできなかっただろう。これ以上抵抗する理由はない。しかも車はすでに走行中だった。

彼女は唇をきゅっと結び、完全に静かになった。

腕を窓際に置き、右手で顎を支えながら、こっそり寒を見た。

男の美しい横顔が不意に彼女の目に飛び込んできた。薄暗い月明かりの中、車窓の外の高層ビルや木々の影が彼の顔に映り、朧げな姿は夜空に浮かぶ静止画のようで、初陽のすべての思考を凍りつかせた。

「石川桐人だけでなく、雲田陵光にも近づくな。彼は危険だ、気まぐれすぎる。何かしたいこと、必要なことがあるなら、私に頼みたくないなら村田城を頼るといい。彼が一番信頼できる…」寒は前方を見つめながら、長い指で舵を握り、物思いにふけるように言った。

男の声が初陽の凝視を中断させた。彼女の瞳に一瞬の慌てが走り、急いで寒から視線を外し、前を向いた。

その後、彼女はまた顔を向け、こっそり寒を見たが、彼はまだ前方を見つめたままで振り向かなかった。先ほど高まった鼓動が静まるのを感じた。