第186章 どうか私をお許しください

「星野先輩……」彼女は小さな声で呼び、眉をひそめ、悪夢にうなされているかのようだった。真夜中の夢の中で、彼女が二年以上も封印していた呼び名を、そっと口にした。

星野先輩、星野先輩、その言葉が彼の耳に絶えず響き、彼の目元の表情はますます優しく、愛おしげになった。

それは、彼女が最も愛した呼び名だった。

たった三文字の中に、かつての彼女の彼への愛慕と憧れがどれほど詰まっていたのだろう？

しかし、いつからか、彼はかつての葉田初陽を失ってしまった。彼を心から愛していた初陽は、もう二度と戻ってこない。

まるで傷ついた花のように、一度枯れてしまえば、もとの鮮やかさと輝きを取り戻すことはできない。

寝室の床から天井までの窓は少し開いていて、風が白いカーテンをそよがせ、月の光がそっと差し込み、彼女の頬を照らしていた。

今の彼女は、彼の腕の中で、穏やかに安らかに眠っている。

この瞬間、時が静かに流れていた。

初陽の閉じていた瞼がゆっくりと開き、朦朧とした視界が徐々に鮮明になっていく。彼女の瞳の奥の光は、混乱から冷たさへ、そして波一つない無感情へと変わっていった。まるで死んだ水面のように、静かに星野寒の顔に注がれた。

寒は一瞬驚き、彼女の冷たく無感情な瞳を見つめた。

「初陽、目が覚めたの？」

わずか30分ほどの間に、彼女の脆さは消え、再び以前の冷静さを取り戻した。そして彼女はもう彼を必要としていなかった。

まるで、さっきまでの弱く無力な彼女は、一瞬で記憶の中に消え去ったかのようだった。

初陽は唇を噛み、体を起こして寒の腕から抜け出した。

どんなに温かい腕の中でも何になる？彼女は自分の心が冷たいと感じていた。どれだけ温めても温まらない。

布団を引き寄せ、その中に潜り込み、体を丸めた初陽の声が、かすかに聞こえてきた。

「帰って……」

さっきまでの柔らかさはまだ残っていたが、この瞬間、彼は氷の穴に落ちたような気がした。全身が氷のように冷たく、凍りついていく。

二人の間には、わずか1、2メートルの距離しかなかったが、初陽と彼の間には千の山と万の海が横たわっているように感じられた。どれほど苦労して旅をしても、その溝を越えることはできない。

……

藍閣会館VIP個室。

石川桐人はポケットに両手を入れ、のんびりとした足取りで個室のドアに向かった。