手首をひねり、360度回転させる動作は流れるように滑らかで、巧みな力加減で東雲敏の拘束から抜け出し、彼女を振り払った。
東雲敏は突然の出来事に反応する間もなく、強い力が襲いかかり、足元がふらつき、そのまま後ろに倒れ込んだ。
林奈は敏の横約1メートルの位置にいたが、彼女が手を伸ばして敏を引き留めようとしても、その勢いが強すぎて敏を掴めないどころか、足を引っかけて自分の体ごと敏に重なるように倒れてしまった。
「ドン」という音が響き、化粧室にいた数人を完全に目覚めさせた。
変化があまりにも急で、こんな劇的な場面が突然起こるとは誰も予想していなかったため、皆が呆然としていた。
林奈が敏の上に覆いかぶさり、敏は痛みで大声を上げた。
「あいたた、痛いよ...林奈、早く起きて、潰れちゃうよ...」
初陽は彼女たちを無視し、可美のそばに行って彼女を助け起こした。
「行きましょう...」
可美は呆然と頷き、まだ状況を把握できないまま、初陽に支えられて部屋を出た。
舞台に上がるまでまだ時間があったので、初陽は打撲用の軟膏を見つけて可美に塗ってあげた。
可美は初陽を見つめ、何か言いたそうにしていた。
ちょうどそのとき、スタッフが初陽を見つけ、急かした。
「葉田初陽さん、急いで...レッドカーペットの順番ですよ。青木盈子さんと東雲敏さんはもう舞台に上がっています。」
初陽は立ち上がり、軽く頷いて、かがんでイブニングドレスを整え、姿見で自分の姿を確認した。
「可美、私が戻ったら病院に連れて行くわ...」
「初陽、もう敏とは争わないで。あなたの役は簡単に手に入れたものじゃないのよ...」可美は眉をひそめて忠告した。
初陽の瞳に一瞬光が走り、淡く微笑んで何も言わず、可美の腕を軽くたたいて立ち去った。
この件は、まだ終わっていない!
……
黒川源はフロントにいて、後ろで起きたことを知らなかった。
敏から送られる熱心な視線を無視し、彼は周囲を見回して、その美しいシルエットを捉えると、瞳の色が深まり、驚きの光が瞳の奥で輝いた。
松本監督の鋭い目は、レッドカーペットの端で準備を整えている初陽をすぐに見つけた。
隠しきれない華やかさと、無視できない輝きを放つ彼女の姿に、数秒間見とれてから、ようやく我に返った。