第137章 この火は絶対に私に燃え移らない

しかし、彼女に対して、石川桐人は非常に積極的で、これまでにないほどの熱意さえ見せていた。

初陽には分からなかった。桐人は一体何の目的で、何度も何度も静かに彼女に近づいてくるのだろうか?

「ありがとう……」初陽は名刺をしっかりと握りしめ、もう桐人の好意を無下に断ることはしなかった。敵より味方の方がいいに決まっている。

桐人は黙ったまま、静かに初陽を一瞥すると、車に乗り込み、発進して去っていった。

傍らにいた優奈は、すでに顔色が青ざめていた。彼女は唇を噛み、初陽の手をぐっと掴んだ。

「初陽、正直に言って。春木錦のニュースをリークしたのはあなたなの?昨夜、トイレに行くって言い訳して、実は写真を撮りに行ったの?」

初陽は何も言わず、肯定も否定もしなかった。

「みんな口が堅くて、逆に私はすごく気になるわ。この春木錦の背後にいる人は、どんな恐ろしい怪物なの?あなたのようなお嬢様でさえ恐れているし、あ、黒川源も私に警告してたわね……」

優奈はこの言葉を聞いて、すぐに焦った。

「初陽、これって本当にあなたがやったの?」

「……」初陽は答えず、優奈の手から自分の手を離し、手を上げてタクシーを一台呼び止めた。

タクシーに乗り込む瞬間、初陽は振り返って優奈を見た。「心配してくれてるのは分かってる。安心して、私は無謀に行動して自分を危険な目に遭わせたりしないから……」

優奈は車のドアをぐっと掴み、ひどく顔色を悪くした。

「初陽、春木錦はそう簡単に倒せる相手じゃないわ。彼女の父親は裏も表も牛耳る大物で、星野さんでさえ春木商の顔を立てて、軽々しく敵に回したりしないのよ。春木商は冷酷で残忍な人だけど、一人娘の錦のことは非常に可愛がっている。もし彼がニュースをリークした黒幕を突き止めたら、闇の勢力を使ってあなたを消すわよ……それに……それに彼女はまだ……」

初陽は手を上げて優奈の言葉を遮った。「もういいよ、私は分別をわきまえてる。この火は絶対に私には燃え移らないから……」

初陽は、春木錦の父親がどれほど凄いか、春木錦がどれほど手ごわいかという優奈の話を聞くのにうんざりしていた。

初陽が知っているのは、もし彼女が反撃に出なければ、いつか春木錦に殺されてしまうということだけだった。

「初陽、あなたは全然分かってない……」