「橋本さん、あなたほど菩薩のような慈悲深く、純粋な心を持った女性を見たことがありませんわ。この世の中、どれだけの女が権力者に取り入って、手段を選ばず出世しようとしていることか。女というものは年々、枯れることのない花のよう。この季節に散っても、次の季節にはまた咲く。男というものは、ひとたびお金と権力を手に入れれば、狂った蜂や蝶のように我が身に群がる誘惑に抗えないものです。橋本さんは沢田様のそばで何年も過ごされて、半ば正室のような存在。あなたの手の中の権力は、五分とまではいかなくても、二分はあるでしょう?その二分だけでも、葉田初陽を処理するには十分…」
「こっそりと彼女を潰してしまえば、蟻を踏み潰すようなものですわ」
数人の奥様方が、あれこれと意見を出し合い、権力に媚びへつらう。
様々な声が入り混じり、実に賑やかだった。
サラサラと流れる水の音、透明で白い湯気を立てる温泉が山頂から下へと、滝のように流れ落ち、等級ごとに区分けされた湯船へと注いでいた。
周囲には木々や花々が生い茂り、翠の色彩が山々を取り囲み、霧が立ち込めて仙境のようだった。
橋本奈子たちがいる湯船は当然VIPで、周囲には帳が立てられ、彼女たちの姿を隠していた。そしてこの周辺には、他の観光客の姿もなかった。
明らかに、ここは彼女たちによって貸し切られていたのだ。
静かな深夜、少し離れたところでは奈子のグループが温泉に浸かりながら、初陽について議論していた。
罵倒、嘲笑、呪詛、すべてが初陽に向けられていた。
しかし彼女たちは思いもよらなかった。彼女たちが熱心に悪口を言っている当の本人が、すぐ近くの東屋に座り、口元に笑みを浮かべ、冷たい眼差しで彼女たちを見つめていることを。
初陽は両腕を東屋の手すりに置き、遠くを見つめ、前方にそびえ立つ雲に届くような山々を眺めていた。夜とはいえ、雲霧が立ち込め、霧が渦巻いているのがはっきりと見えた。
彼女は最初から最後まで、奈子が話すのを聞いていなかった。奈子は気取った態度で、中宮様よりも大きな顔をしていた。
可美は歯ぎしりしながら、初陽の耳元で激しく言った。「この橋本奈子、ただ者じゃないわ。一言も発しないのに、こんなにも多くの人が彼女にへつらうなんて?くそっ、みんな命知らずみたいにあなたを罵ってる。初陽、この腹立たしさ、私、我慢できないわ」