彼女は静かに見つめていた。最初から最後まで、冷静そのものの男を。
命の危機に直面しても、彼の表情は変わらず、常に落ち着き払っていた。
まるで海を鎮める神の柱のように安定していて、海水が世界を飲み込もうとも、彼はただ揺るぎなく立ち続け、一歩も退かず、恐れの色も見せなかった。
これほど長い間、彼を慌てさせるものは何一つなかった。彼はまるで仮面をつけているかのようで、その仮面の下の素顔を見た者はなく、彼が本当はどんな男なのか、誰も知らなかった。
しばらく呆然としていたが、手のひらの痛みで初陽は我に返った。
今の彼女は、自分を責めてばかりいるわけにはいかない。何の努力もせずに、ただ死神の訪れを待つわけにはいかなかった。
必ず解決策がある。彼女はまだ死ねない。星野寒が諦めていないのだから、彼女こそ生きる道を探さなければならない。
突然、初陽の頭に光が走った。急いでポケットから携帯を取り出し、ナビを開くと、地図が表示された瞬間、彼女の目が輝いた。
「寒、南西の高速道路に沿って進んで。五分後に高速道路の脇に大きな湖が現れるわ。その間に、私が何とか窓をこじ開けるから……」
初陽の言葉が終わるや否や、寒は彼女の意図を理解した。
彼は目を輝かせ、ハンドルをしっかりと握り締め、前方を見据えた。
「わかった……窓を開ける方法を考えてくれ。あとは俺に任せろ……」寒はためらうことなく即座に応じた。
リンリンリン、ちょうどそのとき初陽の携帯が鳴った。石川桐人からの着信だと分かったが、彼女は目を少し輝かせただけで電話に出ず、車内を見回した。細長い金属棒を見つけると、彼女の目が輝いた。
金属棒をガラスの端に当て、何度か強く叩いた後、端に沿って外側に力を入れてこじ始めた。
初陽の額から汗が一滴また一滴と落ちていったが、彼女はそれを気にせず、真剣に集中して叩き続けた。
寒はハンドルを操作しながら、バックミラー越しに初陽を静かに見つめ、その瞳の奥に不明瞭な光を宿していた。
ハンドルを握る手に力が入り、彼は黙って初陽を応援していた。
彼の知る初陽は、決して簡単に諦める女ではなく、困難に直面して泣くだけの女でもなかった。葉田初陽は、いつだって勇敢で強靭な女性だった。
彼女は必ず成功する。必ずこの危機を乗り越えられる。