第213章 十分間の時間

時が流れ、春木錦は星野寒を心の奥底に数十年間しまっていたが、過去も未来も、彼は決して彼女のものではなかった。

ほんの少しの余分な視線さえも、彼女に向けることはなかった。

そして今、彼女が心の奥で何年も恋い焦がれていた男性の目には、すでに完全に別の人の姿が映し出されていた。

錦の心は、何か鋭いもので胸を深く切り裂かれたようだった。瞳の奥に一瞬浮かんだ深い痛みを隠し、唇をきつく結んで、無理やり自分を振り向かせ、秋山伊人に従って立ち去った。

雲田陵光は怠惰な仕草で指を上げ、スーツの袖口のしわを軽く押さえ、ゆっくりと目を上げた。

彼は意味深に寒を一瞥し、陰鬱で冷たい視線を初陽に向けた。

彼は無言で笑い、低い声で「星野さん、今回は命拾いしたね。次は、そう簡単には逃げられないかもしれないよ?誰があなたを殺そうとしているのか、よく調べた方がいいんじゃないかな……」と言った。

陵光の言葉は曖昧で、その意味を読み取ることは難しかった。

寒は黙り込み、瞳の奥は暗く沈んでいた。

陵光は小さく笑い、もう一度初陽を見やると、別れの言葉を告げて、だらしなく病室を後にした。

……

寒の注意はすでに散漫になっていた。彼は先ほど陵光が何を言ったのか全く聞いていなかった。彼の両目は初陽がきつく握りしめた手にだけ釘付けになっていた。

部屋に他の人がいなくなると、震える指で、一本一本初陽の手を開いていった。

「触らないで……」

初陽は歯を食いしばって避け、彼に触れられたくなかった。

彼は弱った病身を支え、今まで耐え抜いてきた。その忍耐力は常人をはるかに超えていたが、それでも彼はただの、血と肉を持つ平凡な人間に過ぎなかった。

彼は彼女のために自分の体を犠牲にし、彼女を抱き戻し、さらに彼女のために、星野悠菜を厳しく叱責した。

初陽は、自分が喜ぶべきだと思った。心から嬉しく思い、感動すべきだと。

彼は彼女を救い、そして今さっきのことをしてくれた。どんなに硬い心も、柔らかくなるはずだった。

しかし、なぜか彼女は胸の中で、説明のつかない炎が燃え上がり、心の先端を焼くような痛みを感じていた。

空気も、言い表せない苦さを帯びているようだった。

一分一秒も、もうここにいたくなかった。

初陽は歯を食いしばり、一言一言はっきりと繰り返した。「離して、行かせて……」