第262章 初陽は私が救った

石川桐人はずっと黙って傍らに立っていた。彼の瞳の奥に一筋の暗さが走り、すぐに軽く笑い声を漏らした。「星野社長、ご無沙汰しております……」

「今夜は沙汰があります。沢田鶴の件について、あなたと話し合いたいことがあります」星野寒は五本の指をきつく絡め合わせ、初陽の手をしっかりと握りしめ、そして振り返って桐人を見つめ、冷たい眼差しで言った。

桐人は嘲笑うように鼻を鳴らし、澄んだ目で寒を見つめた。

「星野社長、これは問い詰めに来たのですか?忘れないでください、初陽を救ったのは私です。もし私がいなければ、彼女は今頃どこにいるか分からなかったでしょう。そしてあなたという所謂夫は、涼城中を探し回っても、彼女の足取りを見つけることはできなかったはずです。今のあなたは、私に感謝すべきではないですか?」

寒は目を細め、初陽の手をより強く握りしめた。

「彼らは誰だ?お前が彼らの手から初陽を救えたということは、必ず彼らの正体を見破っていたはずだ……」

桐人は軽く笑いながら首を振り、悠然とした態度で再び隣のソファに座った。彼は隣の席を指さし、寒に座るよう勧めた。

寒は丁重に断り、明らかに彼と多くの言葉を交わしたくないという様子だった。

結局ここは桐人の縄張りであり、自分の部下が到着次第、初陽を連れて出るつもりだった。

桐人はゆっくりと構えており、すぐには寒の質問に答えなかった。彼はポケットからタバコを取り出し、唇に挟み、もう一方の手でライターを取り出して火をつけた。

白い煙が彼の顔の周りに漂い、吐き出す煙の間から、彼の冷たい声がゆっくりと聞こえてきた。

「星野社長は知りたいのですか?しかし、私はこの重要な手がかりをただで差し上げるわけにはいきません。何かと交換しなければ……」

寒の目が沈み、すぐにゆっくりと口元を歪め、声を上げて笑った。

「石川さんは何と交換したいのですか?」

桐人の視線は、もやがかった煙越しに初陽の方へ向けられた。

その瞳には熱い思いが満ち、かすかに輝きを湛えていた。

寒は息を詰まらせ、冷たく笑い、腕で初陽の肩を抱き、彼女を連れて立ち去ろうとした。

「星野社長、まだ条件を言っていませんよ。どうしました、怖くなりましたか?」桐人の声がのんびりと後ろから聞こえてきた。

寒は足を止めず、初陽を抱きながら外へ向かった。