第260章 動かないで、すぐ終わるから

初陽は石川桐人が静かに黙っているのを見て、彼女も急かさなかった。

身をかがめてベッドサイドのランプをつけ、黙って湯飲みにお湯を注ぎ、そっと一口飲んだ。

彼女のこの何も気にしない、自由奔放な態度が、桐人を楽しませているようだった。

桐人は口元を緩め、少し離れたソファに腰を下ろした。

「石川先生はまだ私の質問に答えていませんね。なぜ私を助けに来たのですか?私を連れ去った人たちは一体誰なのでしょう?」初陽はグラスを握りしめ、静かに顔を上げて桐人に尋ねた。

「そんな汚れた話は知らない方がいい。今日私があなたを救ったけど、どうやってお礼をしてくれるつもり?」桐人は質問に答えず逆に問いかけ、瞳に狡猾な光が宿った。

初陽は彼と謎かけをするつもりはなかった。彼女は桐人が単純な人物ではないことを知っていた。彼は涼城に何年も潜伏し、その目的は誰も知らないが、決して単純なものではないはずだった。

沢田鶴が今夜事件に巻き込まれ、彼と桐人の関係は謎に包まれていた。もし沢田が刑務所で桐人のことも白状すれば、北県で名高い名家の御曹司である彼の家族の名声は完全に傷つき、牢獄の災いを被ることになるだろう。

家族から見捨てられるだけでなく、投獄される可能性もあり、たとえ幸運にも逃れられたとしても、残りの人生は流浪の身となり、定住の地を失うことになるだろう。

それは最悪の結末だった。

桐人は先を見越して用意周到で、その心中は測り知れず、沢田が逮捕されるのを黙って見ているはずがなかった。

だから、彼が今夜ここに現れた理由もよく説明がついた。

明らかに、彼女を連れ去った一団は桐人とは別のグループだった。

最も重要なのは、彼女を連れ去った人々が一体誰なのかということだった。

おそらく桐人だけがその答えを知っているのだろう。

初陽は思考を整理し、もう一度尋ねた。

「彼らは誰ですか?」

桐人の瞳は深く謎めいて、じっと初陽を見つめていた。

突然、彼はゆっくりと立ち上がり、一歩一歩初陽に近づいた。

初陽は警戒心を抱き、手の中のグラスをしっかりと握りしめたまま動かず、彼が近づいてくるのをじっと見つめた。

そのとき、外から誰かが入ってきて、桐人に軟膏を手渡した。

桐人はそれを受け取り、長い指で軟膏の蓋を開け、中身を指先に取り、初陽を見つめた。