闇に落ちた瞬間、初陽は自分の命が終わったと思った。今回の彼女は、まるで虎の口に落ちたようで、もう二度と生きて出られないだろうと。
意識はぼんやりとし、体は宙に浮かんでいるかのように、上下に揺れ、どこにも着地できない。
再び目を開けた時、目の前は真っ暗だった。彼女は呆然と目をこすり、ゆっくりと起き上がった。
「痛っ」初陽は思わず小さく呻いた。勢いよく起き上がったせいで、体のどこかの傷を引っ張ってしまったらしく、焼けるような痛みが体中から湧き上がってきた。
初陽は眉をきつく寄せた。彼女は以前怪我などしていなかったはずだが、今の体の痛みはいったいどこから来たのだろう?
パン、と突然の音に、初陽は思わず眉をひそめ、手のひらで服の裾をきつく握りしめた。
すると、目の前が明るくなった。
部屋のドアが開き、一つの人影が外から漏れる光を遮った。その人は背筋をピンと伸ばして入り口に立ち、両手をポケットに入れ、だらしない姿勢で初陽を見つめていた。
「目が覚めたか?」
初陽は目を細め、来訪者を見た。
逆光のため、初陽は彼の顔立ちをはっきりと見ることができなかった。
ただ、この人はどこか見覚えがあり、彼女の知っている人のようだった。
「どうした?落ちて頭がおかしくなったか?」男は低く笑い、少し冗談めかして言った。
「あなたは…」初陽は唇を噛み、彼が誰なのか尋ねようとした。
しかし男は足を踏み出し、ゆっくりと部屋に入ってきた。彼の黒い革靴が床を踏みしめる音が、ダダダダと重く響いた。
初陽に一歩近づくごとに、彼女の心臓は思わず一段高く鳴った。
男は遠くから近くへと歩み、初陽から一メートルほど離れたところでようやく止まった。彼の整った美しい顔立ちがゆっくりと初陽の目に映り込んだ。温かな笑みが彼の口元に浮かび、まるで彼女が初めて彼に会った時のような笑顔だった。
「石川桐人?」
「ふん…記憶喪失にはならなかったようだな。残念だ。もし君が記憶を失っていたら、どれほど良かったか。そうすれば全ての人、全ての出来事を忘れられたのに…」桐人は軽く口角を上げ、眉を少し上げて、残念そうに言った。
初陽の目が一瞬光った。さっきまでの不安な気持ちが、少しずつ和らいでいった。
桐人の身分は単純ではないが、彼女の直感によれば、彼は自分に危害を加えるような人ではないと思った。