第273章 私は後で薬を少し塗ればいいだけ

「可美は今どこにいるの?」初陽は長い間黙考してから、ようやくゆっくりと尋ねた。

優奈は何も隠さず、すぐに答えた。「可美はホテルに戻りました…」

撮影期間中、すべての出演者とスタッフは撮影現場近くのホテルに宿泊していた。

撮影が終わるまで、監督は誰も離れることを許さなかった。

初陽は唇を引き締め、瞳に冷たさを宿した。彼女は身を翻し、来た道を引き返すことにした。

「先に監督に会うのはやめて、可美を見に行くわ」

優奈は反対せず、スーツケースを持って初陽の側について歩き、近くのホテルへと向かった。

初陽は道中ずっと黙っていたが、彼女の眉目に隠された冷たい気配が、思わず漏れ出ていた。

優奈は初陽を直接連れて、ホテルの5階へ上がり、可美の部屋を見つけた。

ドアが開いた瞬間、初陽が可美を見た時、彼女は思わず冷たい息を吸い込んだ。

頬は赤く腫れ、口角は裂け、可美の膝と腕をよく見ると、皮膚が破れていた。

初陽がずっと抑えていた怒りが、完全に爆発した。

彼女は手を伸ばして可美を引っ張り外へ連れ出した。可美はしばらく呆然としていたが、部屋から引きずり出されてようやく我に返った。

優奈をきつく睨みつけた後、顔に笑みを浮かべて初陽を見た。「初陽、どこに連れて行くの?大丈夫よ、後で薬を塗れば良いだけだから」

初陽は可美の言葉を無視し、黙ったまま彼女を引っ張ってホテルを出た。

道中、可美がどんなことを言っても、初陽はまるで聞こえないかのように、返事もせず話もせず、彼女の周りの空気はずっと重かった。

撮影現場に着くと、春木錦は監督と脚本について話し合っていた。彼女は淡いブルーのベアトップドレスを着て、長い髪を肩に流し、その容姿は精緻で美しく、顔には常に上品で礼儀正しい笑みを浮かべていた。

その華やかさは、誰も隠すことのできない風格だった。

言動や振る舞いはまるで良家の令嬢のようで、気品高い名門の淑女だった。

しかし、その華麗で美しい外見の下に隠されているのは、蛇蝎のような黒い心だった。

初陽は心の中で激しく揺れ動く感情を必死に抑え、ゆっくりと可美の手を離し、軽く彼女の肩を叩いた。

可美は心配そうな顔で初陽を見つめたが、初陽が軽率な人間ではないことを信じ、すぐに初陽の側で静かに立ち、あってもなくてもいいような透明人間になった。