「あぁ、初陽、いい加減、私のことを石川先生って呼ぶのやめてくれないかな?思い出すよ、君は橋本奈子のことを橋本先生って呼んでたけど、その橋本先生は今や精神病院に入院してるんだ。春木錦のことも春木先生って呼んでたよね、そしてその春木先生は、つい先ほど君に怒らせられて血を吐いたばかりだ……」石川桐人は鼻をこすりながら、小さく笑って言った。
「どこの目で見たの?私が彼女を怒らせて血を吐かせたって?」初陽は瞳の奥に冷たさを宿し、目を細めて石川を見つめながら尋ねた。
桐人は唇を少し曲げ、軽く笑いながら言った。「何気ない様子で、簡単に場を支配し、しかも春木が反論できないようにした。そんな度胸と手腕は、葉田初陽の君だけができることだ。君の知性と手腕が他の人とは違うことは前から知っていたが、最近の一連の予想外の出来事で、私はかなり驚かされている。君は本当に、この世に稀にしかない珍しい存在だね……」
この言葉が初陽の耳に入ると、聞けば聞くほど良い言葉には思えず、なぜこんなに耳障りで、こんなに嫌な感じがするのだろうか?
先日、彼は彼女を救った。道理で感謝すべきだろう。
しかし星野寒から、桐人が彼女を連れ去った一味をこっそり逃がし、わざと疑惑を作り出したことを知ったとき、元々感謝の気持ちを持っていた初陽は、徐々に彼のことを少し嫌いになっていった。
もしかしたら、桐人はあの一味と何か関係があるのかもしれない。あるいは、彼らは人知れぬ秘密に関わっているのかもしれない?
あの夜、寒に制圧された黒装束の男たちは、皆口を固く閉ざし、有用な情報を一切漏らさなかった。どんな拷問を加えても、彼らは誰かがお金を出して星野寒の命を狙うよう依頼したと主張するだけで、その依頼主が誰なのかは知らないと言い張った。
この手がかりは、ずっとここで行き詰まっていた。
沢田鶴の方は、あの夜逃げ出して以来、行方不明になっている。
初陽は寒が一体どんな罠を仕掛けたのか、そしてどうやって「太公望の釣り」を続けるのか分からなかった。
いつも感じるのは、この大物の魚は釣るのが難しすぎるということ。
しかも、一匹や二匹ではない?
初陽は遠くへ飛んでいった思考を引き戻し、動揺することなく、桐人の皮肉を心に留めなかった。