第280章 先ほどのあの演技、実に見事だった

初陽は軽く唇を上げ、頬の涙を拭い、服を整え、髪を整えた。

そして彼女はスタッフに友好的な笑顔を向け、軽快な足取りで雪村監督の方へ歩いていった。

表情の切り替えが早すぎるほどで、怪我をしていたはずの足も、まるで一瞬で治ったかのようだった。

初陽はまるで手品のように、か弱くて可哀想な女の子から、一変して冷静沈着でオーラの強い女性へと変わっていた。

「監督、春木先生はおそらく疲れすぎて吐血してしまったんです。今日は私のシーンを先に撮影しませんか?私と春木先生の共演シーンはそれほど多くないですし、彼女がいなくてもできるシーンを先に撮って、彼女の体調が回復したら補充撮影すればいいと思うのですが?」

雪村監督は思わず息を呑み、初陽を見つめる目が次第に複雑になっていった。

しかし、彼は特に何も言わず、すぐに初陽と脚本について話し合い始めた。

可美は春木錦が転んだ時から彼女が吐血するまで、一連の衝撃的な出来事に呆然としていた。まるで一世紀が過ぎたかのように長い時間をかけて、ようやく我に返った。

今、一体何が起きたのだろう?

たった十数分の間に、初陽は春木錦を躓かせただけでなく、彼女を怒らせて吐血させた。

そして最も重要なのは、最後には初陽が何事もなかったかのように全身無傷で切り抜けたことだ。

さらに重要なのは、雪村監督もスタッフも皆、先ほどの劇的な場面について沈黙を選んだことだった。

すげぇ、私の初陽は本当に無敵だ。

白蓮の仮面をかぶって、緑茶女の春木錦を見事に打ち負かした?

ずっと抑えていた怒りが奇跡的に消え去り、体が任督二脈が開通したかのように、毛穴まで気持ちよくなった。

可美は目を輝かせてファンのような表情で初陽を見つめ、心の中で賞賛した。私の初陽、マジでかっこいい。

……

石川桐人は少し離れたドアに寄りかかり、腕を組んで、興味深そうな目で初陽の姿をじっと見つめていた。

面白い、先ほどの一幕は実に見事だった。

目立たない動きと数言の言葉で、名門のお嬢様である春木錦を怒らせて吐血させるとは。

「葉田初陽……」彼は彼女の名前を小声で呟いた。

初陽の名前が、彼の喉と心に小さな波紋を広げた。

初陽の姿を見つめ続け、どれだけの時間が経ったのだろう。

目の良い可美が最初に石川桐人に気づいた。

「石川さん、いらっしゃったんですね?」