木村伊夜は眉をしかめた。
彼女は片手で鼻をつまみ、もう片方の手で少し嫌そうに軽く扇いだ。まるで避けたくてたまらないという様子だった。
「このドレス、一体何人の人が着たのかしら。だからこんなに臭うのね。鼻につくわ」
図らずも真実を突かれ、松田の顔が突然真っ赤に染まった。
肌の色に合わないファンデーションが顔に塗られ、より一層不自然に見え、まるで芝居の隈取りのようだった。
肩をすくめて袖口の匂いを嗅いでみたが、濃い香水の匂いばかりで、汗の臭いはまったくしなかった!
伊夜は口元を隠して軽く笑い、手を振った。「早く、早く、薔薇園で宵月司星を探してきなさいよ」
この汗と香水の匂いをまとったまま、後で宵月司星にどうやって追い出されるか見ものだわ。
松田は歯ぎしりしながら伊夜を睨みつけた。
彼女は恥ずかしさと怒りで足を踏み鳴らした。「お前みたいな視野の狭い女は、若帝に近づく機会すらないのよ!」
「はいはいはい」伊夜は何度も頷いた。
こんな女と、彼女はそもそも無駄話をする気もなかった。
若帝に近づく機会がない?
あら、申し訳ないけど、彼女はついさっき一緒に寝たばかりだった。
松田は傲慢に顎を上げ、首に巻いた粗野な金のネックレスを見せびらかすと、10センチのハイヒールで颯爽と胸を張って薔薇園へ入っていった。
伊夜は思わず舌打ちした。
「薔薇園……どうして誰でも入れるようになっているの?」
彼女は本来、薔薇園に来て司星をこっそり見るつもりだった。
ついでに、チャンスがあれば彼の側に忍び込めないか探るつもりだった。
しかし……薔薇園は人で溢れ、出入りする人々は一様に若い美女ばかりだった。
「すみません、今日はここで何かイベントがあるんですか?」伊夜は急いで薔薇園へ向かう可愛らしい女の子を引き止めた。
その子は顔を上げて伊夜の目を見つめ、突然恥ずかしそうにした。「あ、綺麗!」
こんなに美しい目を見たことがなかった!
いや、あったわ。歌姫、木村伊夜もこんなに輝いて人の心を奪う瞳をしていたし。